今も力不足な自分を嫌悪しているよ






「敏也! 何故お前がここに!!」

突然聞こえた怒声に全員がそちらを向く。

そこには小田切警視長と、ライターで火を付けタバコを吸う柄の悪い男がいた。

「ここはお前のようなやつが来る場所じゃない。このパーティにも招待されていないはずだ!」

「うっせぇな! 仕事でたまたまこのホテルに来ただけだよ!!」

「息子の敏也さんだ。たしか、ロックバンドをやってるって聞いたが………」

呆然とその様子を見ていると、小五郎が反論している男のことを教えてくれた。

柄の悪い男は小田切警視長の息子らしいが、言われるまではとてもそうには見えないだろう。

その間に入るように白鳥が二人を止めに入る。

「まぁまぁ……いいじゃないですか、警視長。敏也くん、ゆっくりして、」

「出ていけ! 野良犬が餌を漁るような真似はやめてな!!」

「なんだとっ!」

「敏也さん……!」

小田切警視長の言葉に敏也はキレて喧嘩沙汰に発展しかける。

佐藤は慌てて敏也の肩を掴んで止めるが、彼はそれを振り払った。

「ちっ……! 邪魔したな!!」

吸っていたタバコを灰皿に押し潰して消すと、ギターケースを持ってさっさと出ていく。

「あぁっ! 敏也くん!!」

白鳥が呼び止めるも振り返らずに出ていってしまい、その様子を眺めていた一人の女性が佐藤へと目を向けた。

その女性に気づいた小五郎が首を傾げる。

「ん? 彼女、どっかで見た顔だな………」

小五郎が思い出そうとするも、その女性も会場を出ていってしまった。





舞尋は安室に断ってから、化粧室に向かっていた。

そこで偶然居合わせたであろう佐藤と蘭に遭遇する。

「あら、舞尋ちゃん」

『佐藤刑事だー。こんにちはー』

佐藤は挨拶を返してから、舞尋と蘭に苦笑いしながら言う。

「警察官ばっかりでおかしなパーティでしょう?」

「いえ。それよりも、佐藤刑事も気をつけてくださいね」

「え?」

「だって、刑事さんが次々と撃たれてるから………」

心配する蘭に同意するように舞尋も頷いて彼女を見る。

「だいじょーぶよ! 私タフだから!!」

それに佐藤は心配する二人を安心させるように笑って答えた。

その途端、室内が一気に暗くなった。

突然の出来事に三人は困惑した様子になる。

「どうしたのかしら…… ?」

「おかしいわね………。様子見てくるから、動かないで」

二人にそう言って、佐藤はその場から慎重に歩いていく。

蘭はふと、足元に光が漏れているのを見つける。

それは化粧台の下の用具入れから出ていて、扉を開けてみると明かりがついた懐中電灯がバケツの上に乗っていた。

「佐藤刑事、舞尋さん。こんなところに懐中電灯が」

「え?」

蘭の言葉に佐藤は振り返る。

「ほら」

先を示すように蘭が明かりを向けた途端、佐藤がいる方向から微かな金属音が鳴ったのに舞尋は気づく。

彼女の後方に"嫌な色"があるのを、舞尋は見た。

『ラン! 明かりを消して!! 佐藤刑事はそこから離れて!!』

焦った様子の舞尋に蘭は驚きに固まるが、佐藤はその様子に異変を感じたらしく後ろを振り向く。

明かりに照らされた先にいた人物が拳銃を持っていたのに気づき、慌てて蘭の元へ駆け寄る。

「ダメ、蘭ちゃん!」

「え……?」

しかし時すでに遅く、佐藤は肩を撃たれてしまった。

「佐藤刑事!!」

『………ラン!』

悲鳴を上げる蘭を庇うように舞尋は抱きしめる。

その間にも次々と撃ち込まれる弾丸が、佐藤の身体を何発も撃ち抜いていく。

その内の数発が舞尋の首筋を掠め、洗面台の蛇口にも当たる。

銃弾によって割れた蛇口の破片が蘭の持っていた懐中電灯に当たり、宙を舞った。

懐中電灯の明かりがその先にいた人物の姿を映し出す。

首をわずかに動かした舞尋の目にその姿が焼き付けられた。

足止めのために放たれた最後の弾丸が左足を掠め、その一瞬の痛みによって蘭を巻き添えにして その場に倒れ込んだ。

それを見送った犯人が銃を捨てて逃走する足音が舞尋の耳に届く。

直後に照明が復活し、舞尋はゆっくりと身体を起こし腕の中の蘭を見た。

蘭は気を失っているだけのようで目立った外傷は見当たらなかった。

それに安堵し、今度は佐藤の方を見て舞尋は固まった。

割れた蛇口から溢れ返った水溜まりに混じって、佐藤の傷口からも比例するように大量の血が流れ出ていたのだ。

それに目を見開き、震えながら床についていた両手を見遣る。

その両手は水だけでなく、鉄の匂いを含んだ赤い液体も混ざり合って濡れていた。

『…………私………私がもっと早く……、気づいていれば……………!
 わた、……私が…………止め……ていたら………………!!』

呆然とする舞尋の脳裏を何かが掠める。



―――"赤"に染まり少女の目の前で倒れた女性

―――"赤"に染まって一向に目を覚まさない男


ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………!!



『―――いやぁあぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!』

悲鳴を上げた舞尋の 悲痛な心に共鳴するように、彼女のチョーカーの紐が切れ 付けていた鈴が音を立てて落ちた。





用事を済ませて工藤邸に帰ってきた沖矢は、家に入ると同時に何かが割れる音を聞いた。

警戒しながらも早足で音がした方へ向かうと、リビングの机に上にあったらしいマグカップが落ちていた。

見るとそれは舞尋が愛用しているマグカップであった。

白い猫が描かれたマグカップは沖矢が選び、舞尋があげたものだ。

笑顔でありがとうと言った舞尋の姿が脳裏を過ぎるが、割れてしまったマグカップに眉を顰める。

ひとまず集めようと破片をテーブルに乗せていると、そこに置手紙があることに気づいた。

筆跡から舞尋からのもので、内容は安室たちと出かけてくると書かれていた。

その手紙と割れたマグカップを見つめる沖矢の胸中は嫌な予感で渦巻いていた。






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