誰がために鐘は鳴る






パーティーが始まってしばらく経った頃、白鳥が一人の男を連れて舞尋たちのところへやってきた。

「毛利さん」

「お? いよぉ、おめでとう!」

始まる前は文句を言っていた小五郎だったが、今では会場の雰囲気に酔ったのか上機嫌に彼に祝いの言葉をかける。

「ありがとうございます。あの、ご紹介します。私の主治医で米花薬師野病院・診療科の風戸先生です」

「風戸です、よろしく」

「毛利です」

二人は握手を交わした後、小五郎が家族やコナンたちを紹介する。

「妻の英理に娘の蘭。私の弟子の安室君と彼の従兄妹の舞尋………そして居候のコナンです」

最後にとって付けた様な自分の雑な紹介に不満を感じたコナンは小五郎をジト目で睨み上げる。

「(居候はやめろって……)」

「でも、白鳥さん。診療科って?」

「あぁ、いや。管理職っていうのは、色々と悩みが多いものでして……。それでですね………」

白鳥は小五郎の近くに寄って小声で言う。

「毛利さんも一度、診てもらった方がいいかと思いまして………」

「そうだなぁ……俺も近頃、記憶が…………んっ!?」

白鳥の言葉に一瞬考えるも、すぐに我に返る。

「って、コラァ! どういう意味じゃ!!」

白鳥の言葉に見事な乗り突っ込みを返した小五郎に英理と蘭、安室と舞尋にコナンが笑う。

コナンにいたっては先程の居候発言の仕返しと言わんばかりに大声で笑っていた。

しかしすぐに小五郎に拳骨を落とされる。

「お前は笑いすぎなんだよっ!」

「いってぇ―――!!」

痛みで頭を押さえるコナンの横を、ちょうど目暮と高木が通りすぎた。

「あぁっ! ちょっと失礼!」

それに気づいた小五郎は一言断ってその場を離れ、目暮を呼び止めた。

「警部殿!」

「あぁ、毛利君か」

「その、捜査の方は………」

「スマンが、その話は無しだ」

「えっ……」

小五郎が現在の捜査状況を聞こうとした途端、目暮はすぐに話を断り高木を置いて去っていった。

目暮の不自然な態度に小五郎は戸惑いの表情を浮かばせる。

「なんで話してくれないんだ………」

「おそらく、毛利先生には言えないことがあるのでしょうね」

「あぁ? …………おい!」

彼の疑問に答えるように安室がそう言うと、彼はその場に取り残されていた高木の胸倉を掴んで問い詰める。

「そうなのか、高木!?」

「い、いや………別に…………!」

あからさまに何かを隠しているといった様子の高木を見て、コナンは企むような笑みを浮かべる。

「ねぇ、高木刑事って佐藤刑事のことが好きなんだよね?」

その言葉に動揺する高木と、それを見逃さなかった小五郎はニヤリと笑った。

「いぃっ!?」

「ふーん? そりゃあ面白ぇ……彼女にお前の気持ちを伝えてやるか」

胸倉を離して佐藤のところへ行こうとする小五郎を、高木は慌てて止める。

「ちょ、ちょっ………待ってください!」

このままでは本当に行きかねないと思った高木は諦めたように話し出した。

その際に辺りを警戒するように見回してから小声で話す。

「わ、分かりましたよ………。マスコミには伏せているんですが、実は芝刑事も警察手帳を握って亡くなっていたんです………」

「なっ、なにぃ!」

「えぇっ!?」

「!?」

高木の話した事実に小五郎とコナン、安室は目を見開いた。

先日亡くなった刑事も警察手帳を握って死んでいたとは思いもよらなかったのだ。

「っていうことは………」

「それ以上の詮索は無用です、毛利さん」

いつの間にか来ていた白鳥に、そこで話題を止められる。

「"Need not to know"………そう言えばお分かりでしょう」

白鳥の言葉に小五郎は目を見開く。

白鳥と高木がその場を離れた後も、小五郎は驚きのあまり その場を動けなかった。

「"Need not to know"……"知る必要のない事"、だと………!? バカな………!」

「("Need not to know"………刑事たちの間で使われている隠語……。この事件の犯人は警察関係者の中にいるってことか………!?)」

「(それもただの関係者でなく、警察の上層部………或いは警察組織全体が関与しているかもしれないということだと………!?)」

もし本当に警察上層部や全体が事件に絡んでいるとしたら、相当 重大な問題である。

そういえば、と安室は思い返す。

管轄違いとはいえ、それほどの事件なら自分の元にも風見辺りから連絡が来るはずだ。

ただ情報が錯綜していて遅れているのか、或いは………

そこまで考えて、安室は首を横に振ってその可能性を振り払った。

一先ず、このパーティーが終わり次第 早急に事件の情報を集める必要があるなと頭を切り替えた。





一方、女性陣の方ではプロポーズの言葉の話題で盛り上がっていた。

「じゃあ、プロポーズの言葉はなかったんですか?」

「えぇ。彼、そういうの苦手だから」

新婦の言葉に、新郎は照れくさそうに笑う。

「男はそのくらいの方がいいわよ。歯の浮くような台詞言うような奴に、ロクな奴はいないから」

「へ………ヘクシュッ!!」

「…………クシュッ!」

英理の言葉と同時にコナンは大きなくしゃみを、安室も小さくくしゃみをした。

二人は顔を見合わせると不思議そうに辺りを見回していた。

「ねぇ、前から聞こうと思ってたんだけど お父さんは何て言ってお母さんにプロポーズしたの?」

蘭に同意するように園子も頷いて英理を見る。

「だから、歯の浮くようなくだらない台詞よ」

「先生、教えてください!!」

新婦も便乗して訊ねてくるが、それでも照れくさそうに笑って誤魔化した。

「でも、何か忘れちゃったから……」

「またまたぁ! 惚けちゃって!!」

「今後の参考のために是非!」

「もう! 焦らさないでよ、お母さん!!」

「舞尋さんも聞きたいですよね!?」

『? うん?』

三人に詰め寄られたうえに よく理解していなかった舞尋も巻き込んで見つめられたために、英理は最後まで迷いながらも答えることにした。

「………"お前のことが好きなんだよ。この地球上の、誰よりも………"だったかな……」

小五郎から告げられたらしいプロポーズの言葉に蘭と新婦はうっとりとしたのに対し、園子は顔を青くして小五郎を見る。

それと同時に先程の二人同様、小五郎もくしゃみをしていた。

「うそぉ………」

「素敵じゃない!」

蘭に至っては両手を顔の前で組み、新一に言われたらと妄想している。

「"はぁ………もし新一にそんなこと言われたら…………"、なぁんて顔してんじゃないわよぉ!」

「べっ、別にしてないわよ そんな顔!」

園子にはそんな妄想は筒抜けだったらしく、図星を突かれてしまっていた。

蘭は慌てて否定の言葉を返すが、話題をすり替えるように舞尋に話を振った。

「舞尋さんは、もしプロポーズの言葉を言われるならどちらがいいですか!?」

『? ……どちら?』

唐突に話を振られたことに舞尋は首を傾げる。

「そんなの決まってるじゃないですか! 沖矢さんか安室さんにですよ!!」

面白そうだったのか便乗した園子も乗っかって訊ねてくる。

何故その二人が出てくるのかと思ったが うーんと考えていると、ちょうど女性陣の元にコナンと安室が戻ってきた。

「どうしたの、蘭姉ちゃん? 顔赤いよ?」

「なっ、なんでもないのよ!!」

蘭の顔が赤いことをコナンに指摘されるが、蘭は焦ったように再び否定した。

何かを考え込んでいる舞尋を見た安室はどうしたのかと声をかけようとした途端、会場内に怒声が響いた。





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