揺るぎない支配者
日が落ちて森の奥が騒がしくなったころ、シャチがすでにべろべろに酔った状態で迎えに来た。肩を組まれて引きずられていったローとペンギンの後ろをベポと歩くレイルスはシャチの上機嫌な様子をみて苦笑を零す。先に酒を入れているシャチを迎えに寄越したということは、他のクルーも挙って飲酒済みだろう。キャプテン帰還の祝いだというのなら主賓くらい待てと思わなくもないがローはそのあたり気にする性格をしていない。これがルフィであれば「何先に喰ってんだ!」と怒るだろう、なんだかんだと宴会開始の音頭も人が揃ってからするのがルフィであるためレイルスの予想は当たっていた。
「キャプテーン!レイルス〜!」
ガヤガヤと楽し気な声が届き始めたあたりで、イッカクの声が向けられる。キャンプファイヤーまでしている宴会の場は人が集まり始めたあたりといったところ。レイルスの予想とは違ってまだ料理すら出ておらず、酒を入れていたのはシャチだけだった。どうやらキャプテンに怒られてしまえという魂胆の元送られてきたらしかった。長い間森の中で話していたためか、いつの間にやら砦で別れた麦わらの一味もそこにいる。彼らも丁度到着したらしい。ルフィは血を流して倒れるネコマムシの上から飛び降りて「おーい」なんてのんきに手を振っている。レイルスは巨大な猫の姿を見てぎょっと目を見張る。猫?猫でいいのかあれは。
イッカクの声にレイルスの存在に気が付いたチョッパーが手早くネコマムシの処置を行ってぴっこぴっこと駆け寄ってきた。先にこちらへと向かっていたイッカクがレイルスの首へと抱き着いて頬を摺り寄せた。ハートのクルーもすっかりとミンクシップに染まっているようだ。ふらついたレイルスはベポの腹部にモフっと背中から埋まる。ぴょんと飛び上がったチョッパーはレイルスの腕にしがみつく。一瞬で多方面から圧迫されたレイルスはぎゅむ、と眉を寄せた。
「んも〜!一人で無茶して!元気そうでよかったけど、ったく心配かけて!ちょっとなにこの髪ボロボロになってんじゃないか!」
「よかったぁレイルス〜!」
「モテモテかよレイルス!」
ぎゃははと笑ったシャチがレイルスの頭をわさわさと撫でまわす。「憎いねぇ」なんていいながら半笑いでいるあたりいいことは考えていないだろうと察したレイルスは容赦なくシャチの脚に踵を振り下ろした。痛がって片足で跳ねながらジョッキをもって近寄ってきていたウニに突っ込んでいったシャチはかわいそうなことにウニに回避されて地面にべしゃりと倒れ込んだ。
「べ、ベポ……!そそそ、そいつは……」
「レイルスだよ!俺大丈夫だっていっただろ!」
「チョッパー先生……」
「大丈夫、大丈夫だから!」
遠巻きにこちらをうかがっていたミンク族が我慢できなかったのか恐る恐る声をかけてくる。言葉少なくとも事態を理解してしまったレイルスとローは思わず目を合わせてしまう。予想が的中していたらしい、ミンク族は見るからに怯えてレイルスへと目を向けていた。レイルスは「あー」とやや困ったように眉を下げてチョッパーごと手を持ち上げて敵意がないことを示した。
「ざわつくかと思いますがただの人間のはずです、どうも」
「どんな自己紹介だ!ってレイルスおまえ知ってたのか?」
チョッパーに驚いた声で問われたレイルスは苦い顔で「ベポに怖いって言われたことある」と告げる。ついでに言えばゾロにもローにも気配については言われていたため自覚するに至ったのだが、そうはいってもその理由も原因もいまだ判然としておらずわからないままだ。そしてチョッパーもレイルスの気配になにかしら思うところがあったのだと知ってしまったレイルスは心にダメージを負う。知りたくなかった。ちなみにチョッパーはW7にてそれはもう怖がりながらレイルスを治療していくうちに慣れたため、レイルスが目覚めた時にはすっかり距離は縮まっていた。小心者のくせして図太いトナカイである。
「おートラオ!そいつら仲間か」
「そうだ、紹介しに来た。うちのクルー総勢21名だ」
「20だろうが」
ちゃっかり換算されたレイルスが小声で突っ込む。そのままレイルスを引きずってルフィの元へと近寄って「話がある」と話題を切り替えたローに引き剥がされたイッカクとベポだけにとどまらず、全員からブーイングが上がる。同盟相手だというのに紹介があまりにも雑なせいであった。
「ただの同盟だ、別に仲よくする必要もねぇだろ」
「レイルス!おい大変だぞ!ビックニュースだ!!」
ウソップがローに連れられたレイルスを発見し大声を上げる。それでもブーイングを続けるハートのクルーに「こえぇ!」とそれに今気が付いたとばかりにウソップが飛び上がって逃げていく。忙しいウソップに薄目を向けたレイルスはどうにかしろよとローへと視線を流す。
「そんなに俺の能力が恋しかったか、そうか」
「すんませんっした!!」
ばらされると即座に理解したクルー蜘蛛の子を散らすように一瞬でいなくなる。巨体のベポやジャンパールまで土ぼこりを立てて綺麗にいなくなったため、それを見たルフィがゲラゲラと笑った。
「なに!?黒足がビックマムの元へ!?なにがどうなりゃそうなるんだ!」
ローの驚愕の言葉にレイルスはこくこくと頷いて同意を示す。ドレスローザにて目的地がゾウであることを知られてしまったこと、魚人島にて邂逅していたビックマムの部下であるぺコムズがこのゾウの出身だったためなどの不幸が重なり簡単に追跡されてしまった。しかしゾウはジャックによって壊滅状態。ミンク達に口々に麦わらの一味によって助けられたのだと聞かされたぺコムズはなんとか麦わらの一味を逃がそうとしてくれたようだが、ぺコムズと共に来ていたもう1人がそれを許さなかった。最悪の世代の1人、カポネ・ベッジだ。新世界入りと同時にビックマムの傘下に下っていたベッジは悪魔の能力を使いぺコムズを重症へと追い込み麦わらの一味を拘束した。
そこで聞かされたのはサンジがビックマムの娘の一人と結婚するのだという衝撃の事実。どうやらサンジの親が関わっている様子があり、詳細は不明であるがケリをつけに行くためにとサンジは1人ベッジに連行されていったそうだ。ナミが「脅されたんだと思う」とべっこりと凹んだ声で補足する。ルフィとローの言い合いを背景にレイルスはナミの背中をぽんぽんと叩いてやった。すんすんと鼻を鳴らしてナミがレイルスの手を自らの頭に乗せてグリグリと押し付け始める。ガルチューの強要が凄まじいとレイルスは呆れながらもガシガシと頭を撫でてやる。
「だから、俺が迎えに行ってくるから、ちょっと待っててくれよカイドウと戦うの」
「待つも何も、俺たちがカイドウに狙われるのは時間の問題だぞ。暫く身を潜めるはずだったこのゾウも奴らに居場所が割れちまっている……次が俺たちが狙いだとしても、また攻め込まれたらこの国は一体どうなる」
ローの言葉にひっそりとその言葉を聞いていたクジラの森の住人達がおんおんと涙を流し始める。海賊だというのにどうしてこうも優しいのか。ミンクを思いやったローの言葉の本心を読み取られ、ローは表情を無にした。「死体男爵」と呼ばれ犬のミンクに齧りつかれているブルックを見てなるほど仲間の死体、とレイルスは引っかかっていた事柄を一つ解決して頷いた。マイペースな女である。気絶していたはずのネコマムシが目を覚ましのっそりと起き上がって笑った。どうやら色々と様子を伺っていたらしい。誰もがそちらに視線を向けて、その言葉を神妙に待つ。
「よし宴ぜよ!」
「賛成だぁ!」
「なんっでだ!」
様子を伺っていてそれか、と数名が呆れる。腕を上げて喜ぶルフィにチョッパーなど歯をむいて怒鳴ったが当人は何のそのだ。ネコマムシは片腕を失って日が浅い。死にかけていたこともあり絶対安静が必要なのだが、勝手に湯につかり酒をのみ重たい食事をがつがつ胃に入れと全く持って医者の言うことを聞かない問題児だった。
「元からベポ達の船長と仲間の帰還のために用意は進めておったんやが、全員で騒ぐのが宴ぜよ!」
仲間という言葉にすぐさまピンときたレイルスはローの頬を容赦なく摘まんだ。ハートのクルーがレイルスを仲間だと吹聴している事実にレイルスの眉間に皺が寄る。
「おいどういう教育してんだ」
不機嫌に顔を顰めたローはペチンとレイルスの手を叩いて暴挙を辞めさせた。りゅうのすけの背でルフィに同じことをしていたなと思い出したフランキーはルフィとローの扱いが一緒なことに気が付いて声を上げて笑った。
投稿日:2026/0524
更新日:2026/0524