揺るぎない支配者

 ワノ国の侍「雷ぞう」。その存在によってモコモ公国は滅びた。この国で起きたことの知る限りをペンギンはローとレイルスへと聞かせた。ペンギンの後ろにはベポがしょんぼりとした顔で座り込み、時折くぅと喉を鳴らしている。他のクルーは船長帰還と家出娘の無事を祝うためにと宴の準備を進めている。
「カイドウの部下、旱害のジャック……最初はキャプテン絡みでうちが引っ張ってきちまったのかと思ったんだが俺たちには目もくれず『雷ぞう』を出せの一点張り」
「確かゾオン系悪魔の実の能力者だったな」
「それも古代種マンモス……馬鹿みたいにデカくてよ。戦車みたいな形してたぜ」
 巨大な足跡の正体はそいつか、とローとレイルスは理解する。四皇の一角が攻め入ったとなればこの惨状も納得できるもの。昼夜で戦力を入れ替えて、国民全員で戦ったミンク族だったがそれ以上にジャックは残虐だった。最終的に毒ガスを国中にばら撒き、一網打尽にされてしまったミンク族は強いものから張り付けにされ拷問にかけられた。結果として2人の王――イヌアラシとネコマムシの手足を切り落とすにまで至った。その間もジャック一派はこの国にいない「雷ぞう」を出すようにとミンク族を責め続けた。その名前に覚えがあるローとレイルスは沈黙したままペンギンの話を促した。
 残虐の限りを尽くしたジャックだったが6日経った頃に数十名の部下を残して引き上げていった。日付を聞いたレイルスは丁度世間にドフラミンゴ討伐と拿捕が公表されたあたりだと察し顔を顰める。ローは麦わらの一味とカイドウを落とすための前哨戦としてドフラミンゴを討つとしていた。ジャックが引き上げていったのはドフラミンゴ奪取のためかそれとも始末をつけるためか。いずれにしろ新聞にてドフラミンゴを輸送中の軍艦を襲い、返り討ちにされて死亡したと報道されたジャックが引いた理由はそこにあるのだろう。
 そしてジャック達が去った翌日、麦わらの一味が上陸する。不幸中の幸いだったのは使われた毒ガスが連れていたシーザーが作ったものだったということだ。嫌な名前が出たためにレイルスはあからさまに顔を歪めオエ、と舌を出して嫌悪を露わにした。どれだけ嫌いなんだとローはやや呆れた目を向ける。
 チョッパーの尽力により解毒剤を作成、避難していたためにガスの被害を受けていなかったミンク達も総出となり戦士たちへの対応に走り回ったという。その間チョッパーの小言で一番多かったのが「レイルスがいれば!器具が!足りねぇ!」だったのは余談だ。ちなみにハートのクルーはベポの故郷を守るためにとジャックの部下と交戦した上にガスで全員やられていたため、麦わらの一味が到着していなければ死んでいた。今度はローが思い切り嫌な顔をした。船長の預かり知らぬところで恩をこさえていたクルーはあっけらかんとお礼を伝えていたし、なんなら同盟なら船長にも怒られないだろうなんて考えていた。
「まぁ……麦わらの一味が歓迎されていた理由は分かった」
「厄介なことになりそうだな」
「なんでです?」
「……その雷ぞうを探しにワノ国の人間が2人、ドレスローザから同行している」
「はぁ!?」
 衝撃の事実にペンギンは思わず立ち上がる。ベポもギョッとして口をあんぐりと開けた。ドレスローザからと濁したが、正確にはパンクハザードからであるし、なんなら先にモモの助は上陸しているはずである。先ほど砦にてモモの助が顔を見せなかった理由はこれかとローは頭を抱えた。運よく侍2人は遅れているが、一日もかからずにここまで登ってくるだろう。そんなローの横でレイルスは口をとがらせて目を伏せた。
「ん〜……話が可笑しい」
「え?どこが?それよりこれからどうするの!?みんな絶対に怒るよ!」
「落ち着けベポ、レイルスはどうしたんだよ」
 己よりも慌てる人物がいると落ち着ける。ベポの様子で落ち着いたペンギンはどうどうと彼をなだめながらレイルスへと顔を向ける。じっくりと考え込むように形のいい顎に指先をあてて地面へ視線を落とすレイルスの顔は静かだ。髪を結んでいるために俯いてもしっかり見える横顔を、ちろりと蝋の光が舐めていく。
「ジャックは確信があったからこの島まで『雷ぞう』を名指しで探しに来た」
「……まあそうだな」
「麦わらの船に同乗していた侍の話だと、元は4人でゾウを目指していた中で1人が遭難、そのあとドレスローザでさらに1人逸れた……って経緯だった。話からその遭難者が『雷ぞう』なのは一緒にいて話を聞いた私だから推測できるけど、どこでどうやってジャックが知ったのか……余地がないでしょ」
「あれホントだ」
 ベポがおお、と感嘆しながら納得する。言われてみれば確かにおかしい。ジャックがいかに確信を持っていたかを目にしているからこそ、どこかで情報を得ていたのは間違いない。遭難したことを知っていたとしてもそれを雷ぞうだと断言出来る理由はないはずだ。だがレイルスの話を聞くに情報が洩れる余白はどこにもなかった。そもそも、侍達がゾウを目指していたことすらなぜか把握されているのが妙である。
「ドレスローザで知られちまったとか?」
「ありえなくはないけど……違和感強いなぁ」
 肘をついてそこに顎を乗せたレイルスは目を伏せてうーと唸る。納得できないとその顔に書かれており、ローはため息を落として口を開いた。
「そもそもあいつらが本当のことを言ってるのかどうかもわからねぇだろ、わざわざゾウを目指した理由も不明だ」
「……目指すのにここまで向いてない場所もないか、逆に言えばそう簡単につける場所でもないのにここに来る理由があった」
「キャプテン火に油、また一人の世界にとんでっちまいますよレイルス」
 そんなことはない、とローとレイルスが揃ってペンギンを睨みつける。ピッと背筋を伸ばしたペンギンはうわぁこの感じ久しぶりと半泣きのまま懐かしさに震えた。頭のいい2人であるため、しばし議論に熱が入りどちらかが思考の深みから帰ってこないことがままあったのだ。
「そうだ心臓」
 あ、とレイルスが声を出し、「ん」と手を伸ばす。視線で早く返せと訴えられたペンギンはローに指示を仰ぐべく視線を向ける。釣られるようにレイルスもローへと顔を向けた。
「……お前心臓返して欲しかったんだな」
「脅した自覚はおありか」
 てっきり要らないのかと、なんて悪い顔で笑うローに、にっこりと笑顔を返したレイルスの額はピキピキと引きつっている。ドレスローザで何度か心臓を盾にあれこれ言ったローは、しかしまったく悪びれることなく鼻で笑った。
「大人しく言うことを聞かねぇお前が悪い、お前が材料にさせたんだ。元はと言えば置いていった自業自得だろ」
「理不尽に切り刻んどいてなんで私が悪いみたいに言えるんだこいつ……」
 レイルスはローを胡乱な目で見上げてから項垂れた。ローからすれば理不尽などとんでもない、青雉にのこのことついていき挙句の果てに一人でグランドラインを渡っていくなど馬鹿なことを大真面目な顔でいいのけたレイルスが悪い。当時のことを思い出したローは振り回された過去と、船長室に放置された心臓を回顧して機嫌を悪くした。
「明日にでも返してやれ」
「今じゃないの」
「勝手にゾウから降りるだろ」
「んな無茶するか死ぬわ」
「似たようなことしておいてなにほざいてやがる前科持ちは黙ってろ」
「犯罪者に前科について言われたかないわ!」
「お前も犯罪者だ」
 やいやいとテンポよく言い合いを始めた2人をみてペンギンとベポは目を合わせる。2人とも機嫌いいね、そうだな。ドレスローザで気を張っていた両者だったため、敵がおらずかつ気が知れているペンギンやベポの前ですっかり気が緩み始めていたのだった。

 - return - ×

投稿日:2026/0313
  更新日:2026/0313