だって愛じゃない!
乙骨の変化は誰の目から見ても分かり易かった。「これって誰?」
「委員会が一緒の人だよ」
「どうして休みの日にまで連絡してくるの?」
「どうしたんだろ、見てもいい?」
「ううん、だめ」
「だめかー」
蒼水のスマホに通知が来れば画面をのぞき込んで質問攻めにし。
「虎杖君、近い」
「すんません!」
「小春ちゃんも気をつけてね」
「うーん、憂太君のほうが近いんだけど」
「僕はいいでしょ」
前までは口に出さなかった嫉妬を明確に言葉にし。
「今度は二週間も会えない」
「そうだね」
「ぜったいに毎日連絡してね、ちょっとでも何かあれば連絡してね、何もなくても連絡してね」
「頑張るよ」
「五条先生には近寄らないでね」
「ちょっと憂太〜先生泣いちゃうよ〜」
「先生近いです」
今まで以上に離れることを嫌がり蒼水に連絡を強要し。
「消えてきちゃったなぁ……」
「なにが?」
「首の痕」
「首?」
「こっちの話、もう寝よう」
どれだけ真希に殴られようとも蒼水へ鬱血痕をつけることを躊躇わなくなり。
例に挙げられないほど多くの変化が要所でみられ、周囲はついに乙骨も腹をくくったのだと思っていた。特に里香のことを知る面々は安堵していたのだ、瞑婚すら厭わないとした乙骨だ、生きている間も里香に捧げる勢いだったため蒼水との関係を下手につつけずやきもきとしていた。だから虎杖も、安堵して乙骨に問うたのだ。
「やっと付き合ったんですね」
「ううん」
一瞬にして空気が凍る。地獄の状況を再び作り上げてしまった虎杖がバッと振り返って仲間に聞き間違いかどうか全身で問いかけた。ううん?首振った?いま否定した?乙骨の返答に全員が固まった。数秒後、絶叫がその場に響く。なんでどうしてどうなったらそうなるあの態度は何だ。乙骨は飛んでくる言葉と拳を甘んじて受けながらへらりと笑った。
「でも小春ちゃんのこともう離せないから、恋人ができないようにするしかないでしょ?」
びっくりするほど最低なことを宣った乙骨に虎杖は絶句する。どうしようこの人をまともだと思っていた自分が恥ずかしい。呪術師ってみんなやっぱりおかしいんだと白目を剥いた。
「恋とか愛とか、そういうのは僕もうわからないけど……でもこの先ずっと小春ちゃんのこと大切にしたいし、守りたいし、隣にいたい。小春ちゃんの中に僕だけがいてほしいと思うし、僕のことだけ特別にしてほしい」
「それが許されるのが恋人でしょ?なんで付き合わないの……」
釘崎が分からないとばかりに声を上げるも乙骨は首を振る。乙骨の中の愛は折本里香の形をしている。それはこれから先何があっても変わらない。本当は蒼水を縛りたいという欲求もある、けれどそうではなく彼女の意志で乙骨を特別に据え置いてほしいとも強く思っている。乙骨がすでにそうしているように、特別に唯一に居座らせてほしい。だからと言って呪いたいわけではないから、乙骨は間違っても釘崎の質問に首を縦には振らない。要は怖いのだ、もう絶対に間違えたくないからこそ臆病な乙骨の性格がストップをかけて関係に名前をつけることを良しとしなかった。だが、それ以外であれば何をしてもいいと割り切ってしまった乙骨の発想は誰がどう見ても狂っていた。
「だからさ、みんなも見張ってて」
「なにをですか」
こわごわと、顔を引きつらせながら伏黒が聞く。
「万が一にも僕が知らないところで小春ちゃんが好きな人つくりそうだったら、邪魔して」
「何言ってんだマジで!」
「小春ちゃんに僕たち以外に友達も本当はいらないんだ」
「無理!むり!!本当に無理!!」
「大学も進学させたくないなぁ、僕が養うから必要ないし」
怯えた釘崎が真希に抱き着く、真希も思わずかばうように釘崎を己の背後に押し込んだ。
「もし、もしだよ……小春ちゃんに好きな人とか……恋人ができたら僕相手のこと……」
「言えよ!!」
薄暗い笑みを浮かべて乙骨は言葉を切る。パンダが吠えたが、言わずとも想像できる続きに全員背筋を震わせた。後日この話を生徒に聞かされた五条はあちゃあと笑った。そうくるか、開き直った乙骨は手強い上に厄介極まりないだろう。
さて素直に恋人に収まるにはどれだけかかるか。加護の形が里香であると気がつけば早いだろうが、五条は残念ながらそこまで面倒見が言い訳ではない。家入と賭けでもしようと五条は喜久福を口へと放り込んでその甘さに口角を上げた。
投稿日:2022/1229
更新日:2022/1229