移ろう少女

「おかえりなさい!!」


私、ウィンリィ・ロックベルの両親はお医者さんです。住んでいる場所はリゼンブールで、近くの町にお医者さんは私の両親だけです。だから出張して何日か家を空ける事なんてしょっちゅう。

学校の作文でこんなことを書いた。先生に褒めてもらえて、なんだか余計に自分の両親のことを自慢に思えたし誇らしかった。けれども本音はいつだってそういう場所では言えないものなので、この作文だって自分の本心の半分には触れていない。本当はあまり私を置いて行かないで欲しい。お父さんとお母さんは人を助けに行っているのに、どうしても私から二人を取らないでと思ってしまう。二人の仕事を誇らしく思うし、邪魔はしたく無いからいつも寂しくて泣いてはしまうけど引き止めたりはしない、そんなことできないししたくない、いい子でいたい。だから言えない。それでも本心は良い子ではいられなくて、どうしても「いかないで」と泣いてしまいそうになる。
いってらっしゃいを言うのは嫌い。置いて行かれてる気がするから。おかえりを言うのは大好き。だから満面の笑みで元気に言える。そんな私のおかえりに両親も笑顔でただいまをくれるから、この瞬間は小さな私にとったら特別なおまじないみたいなものだったのかもしれない。でもその日は違った。


「あぁ!ウィンリィ、ただいま」


いつも通りのお父さんの笑顔と大きな温かい手が私の頭を撫でてくれて今まで寂しかったのが嘘みたいに幸せな気持ちになる。ああ帰ってきてくれたのだと穴が空いていたような胸の寂しさが埋まるような安堵を得る。


「おかえりなさい!……あれ?お母さんは?」


「母さんならあそこだよ。」


そういって私に見えるように体をずらした先にお母さんはいた。出かけたときと変わらない様子にホッとして、嬉しくなる。この家にくる一本道をまだあるいている途中。いつもなら2人一緒なのに今日はどうしたのだろうか。私たちの視線に気がついたのかお母さんが笑顔で手を振ってくる。その姿を見て私も笑顔になる。おかえり、おかえりなさい。叫ぶように大声をあげればこちらに振る手が余計に大きく揺れたように見えた。そうしてすぐにその隣の小さな影に気がついた。よたよたと、不安気な足取りで手を引かれて歩くその影は私の大声に足取りを重くしたように思える。


「女の子?」


お母さんと手を繋いで不安そうに歩いてくるその子に。その日は確かに違った。いや、その日から変わったのだ。





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投稿日:2017/0905
  更新日:2017/0905