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「どうした勝呂、腹でも下したのか?」
 気が付いたらぼーっとしてしまい、これではダメだと自分で喝をいれるも、ふとした時に襲い来る何か。それに身を任せてしまうとため息が多くなり眉間に皺がより、奥村曰く「腹が痛そうな顔」になるらしい。お前の思考力の浅さが羨ましい。例の如くまたそんな状態になっていたらしくここ数日で何度目かの奥村からの腹の具合を問われる掛け合い。毎度聞かれるたびに違うと言っているのだが覚えていないのかこいつは。もさもさと焼きそばパンを口に押し込むようにして詰めていく。口の中のものがすっかり食道に落ちていってから重たい口を開いた。
「ちゃうわ」
「……なあ子猫丸、勝呂どうしたんだ?反抗期か?あ、反抗期はずっとなんだっけ」
「せやねぇ、和尚様にはずっとああやったから……」
「全部聞こえとんぞお前ら」
 あれ、元気じゃん。なんて耳打ちをするポーズのまま宙に浮いたままだった手を下ろしながら、少し首を傾げる奥村になにいっているんだという顔を向ける。自作の弁当をつつきながら少し言葉を探すように視線を落とした奥村は間抜けな事に口の端に米粒が付いていることに気が付いていないらしい。
「あからさまに元気ねーもん勝呂」
 あー、と卵焼きを口に頬りこみながらそれでももごもごと喋ろうとするこいつに本当に奥村兄弟は似てないなと関係のないことを考えながら、こいつのなかで元気がない=腹が痛いなのかと同時に呆れた。
「坊にも春ですかねぇ」
「あ?もう冬になるだろうがスパイ」
「そうですよスパイさん何いうてるんですか」
「冗談はお前の頭だけにしとけやスパイ」
「坊優勝です、断トツできっつい」
 それ色の事ですよね?中身の事ちゃいますよね?とへらへら笑いながら聞いてくる志摩を適当にいなしながら、普段通りに戻ったはずの日常をぼんやりと実感し、同時にかけてしまった物が浮き彫りになってしまって居心地が悪かった。昼になると志摩にくっついてきていたみょうじが、あれ以来一度も俺の前に現れていないのだ。謝ろ謝ろうと思いながら、気が付けば志摩が戻ってきて暫く経ってしまっている。その間、面白いくらいにあいつは俺の教室にも来なかったし志摩について昼にも来なかった。それどころか廊下ですれ違うことすらなくなっていた。流石の俺でも避けられているのであろうことはハッキリと分かるくらいには、あいつの影すら見えなかった。
 どれだけ今まであいつから俺の所に来ていたのかが改めて分かってしまって、何とも言えない妙な気持ちにもなったが、それ以上にこうもあっさりと切れてしまうような関係だったのだなと痛感した。みょうじの連絡先すら知らないのだ、俺は。
 大きく溜息をついて、物足りないと思ってしまっている自分をいい加減認めようと、紅ショウガの味を感じながら思った。まずはそうだな、あいつをとっつかまえて、謝るところから。
「そういやなまえは?」
「いきなり踏みに行くなぁ奥村君、さすがやわ」
「奥村君こわいわぁ」
「いつなまえちゃんが来てもいいように健気に寒い外で食べることをしなくなった坊の気心にすら気が付いてないやろ」
「え!?そうなの!?あー、でも女子って寒がりだもんな」
「ホッカイロまで用意してるんや、その優しさのちょっとでも僕にくれればええんに」
「それはちょっとキモチワルイな」
「お二人とも坊いるの忘れてはるんですか?」
「歯ぁ食いしばれお前ら」


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投稿日:2018/1020
  更新日:2018/1020