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ちょっとごめん、と言って携帯を取り出した迅君はどうやら柿崎君と嵐山君に連絡を取っていたらしい。心構えもできずに突然ぜーぜーと息を荒げた彼らが現れた時の私の気持ちをちょっとだけ考えてほしかった、本当にびっくりした。ほうれんそうだいじ。
二人が来たところで三人掛けのベンチ、の真ん中にぼんち揚げを広げているものだから二人が座れない、と移動をしようと立ち上がったのだが、それをやんわりと迅君に止められ、どういう訳か迅君も立ちあがり床に座った。
「え、え?まってどうしたの」
なんて驚いている間に息の落ち着いた嵐山君と柿崎君までもが床に座った。それも正座だった。本当になんで?ナンデ!?完全に挙動不審になって三人の顔を順番に見ていたが、なんだかもう久しぶりに会えたんだなあという想いまで混ざってしまってうっかり、本当にうっかり泣いてしまった。同期の二宮君曰く私の涙腺はゆるいらしい、今まで否定してきたが今日から自覚しようと思った。ぼろ、と零れた涙に先ほどの私以上に慌てる柿崎君。そういう所本当に素直で私大好き、あんな難しい性格の影浦君もだから君の事慕ってるんだよ、あの子この前私の顔見て舌打ちしたからね、おばちゃんのメンタルにしっかり刺さりました。
「あ、わ、みょうじさん!」
「ちょっと緩いだけだから気にしないでぇ〜柿崎君ちょっと髪伸びたぁ〜」
「え、あ最近切りに行けてなくて……」
「うぅ〜久しぶり〜」
「……しにそう」
「あ〜、あの、みょうじさん…実は、俺達三人とも、その……みょうじさんのこと少し……避けてて」
「うん……ごめんね」
「いやいやいや、みょうじさんなんにも悪くないんだって!俺たちの問題で……!」
そういって正座したまま迅君が話してくれた内容は、なんとも酷い話だった。
曰く、一か月ほど前に(一か月も避けられていたという事実にまたべっこべこになりかけた)太刀川君の所持していた私の写真を見て、その時に高校の時の水泳の授業の物だったり、学園祭の時の衣装で着たミニスカのものだったりが入っていたらしい。それで気まずくなってしまって…というのが今回の避けられている騒動の発端だったようで申し訳なさそうにそれを全て話してくれた迅君は居たたまれないのか顔を床に突っ伏してしまった。私もそうしたい気分。
「一週間太刀川君とぜったい口きかない……」
「一週間で許すんだ……」
「三人ともごめんね…見苦しいものを…というかなんでそんな写真太刀川君が持ってるの……」
信じらんない太刀川君、本当に信じられない。忍田さんに絶対に報告する、写真も消してもらう。こんな真面目な子達になんてものを見せてくれているんだ。彼らの気まずさもしょうがないだろう、同い年の女の子や可愛い子、ちょっと気になるあの子ならまだしも私なんかのお色気写真…気まずくなるに決まってる。ああ、と恥ずかしさやら申し訳なさやら太刀川君へのやるせなさで俯いていると、不意に自分に影がかかったのが分かった。
「嵐山君?」
「あ、ああ〜いやこれは……」
どうしてか迅君があちゃ〜といった顔をして立ちあがったと思ったら柿崎君を引っ張って離れて行ってしまう。え、まってまだちゃんと謝れてないと思っていたら私の目の前で膝をつきなおしていたらしい嵐山君の顔が目の前に会って心臓が飛び出るかと思った。そう言えばここに来てから一言も話していないな彼。静かすぎるくらいだった。
「び、っくりした……、ど、どうしたの嵐山君」
彼の顔を見るのも本当に久しぶりだ。相変わらず覚めるようなまっすぐな目をしているなあと思っていれば、徐に膝の上に乗せていた手の甲に何かが触れた。ん?と思って見下ろせば嵐山君の手が私の手を覆っていて、やっぱり一つ年下と言っても体格差は顕著だなあと薄らと考え…いやいや、え、どうした嵐山君。
「みょうじさん」
「うん?」
「責任をとります」
「ん?」
「責任を、とります」
ぼんち揚げの匂いが漂う中、まっすぐすぎるほどの嵐山君の瞳私を突き刺してくるようで、耐えきれなくなって笑いそうになってしまう私を叱るようにきゅ、と握られた手がじんわりと湿っていて、見つめているうちにどんどんと赤く染まってくる嵐山君の頬を見て。
やっと言葉を噛み砕いた私はそんなことをする必要はないのだと必死に彼を説くのだが、この日以降、あれほど会えなかったのが嘘だったかのように嵐山君との遭遇率が上がりそれはもう心臓に悪い日々を過ごすことになるのだ。
投稿日:2018/1215
更新日:2018/1215