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 嵐山准という男は、見かたによっては途轍もなく残酷な男であると私は思う。
 ボーダーの顔といっても過言ではないほどこの三門市において認知度のある彼、そしてそのきっかけとなった放送と言えば大抵の三門市民は「ああ、あの会見」と思い至る。まだボーダーの認識が世の中で定まっていなかった頃、それを決定づけたのが当時中学三年生の嵐山だった。まだ幾ばくもいかない少年が戦場に立つということを、画面の向こうの人間に理解させ、そして真摯な態度に多くの人が納得をした。
家族の無事を確認したら、最後まで戦える。
 本当に本気の言葉だった。言わされた訳でも無く、彼自身の頭で考え出てきた言葉。それが伝わったから、そんな彼のいるボーダーにならば自分の命を預けてもいいなんてそんな風に感じた人まで出てきて、あの放送をきっかけにボーダー入隊志望者数は増え、なにより三門市を出ていこうとする住民の数も停滞した。それほどまでにあの言葉には影響力があった。
 嵐山准はボーダーを世の中に正義の味方として刻み付けたのだ。
「でもさぁ、逆に言えばそれって家族以外はみんな平等ってことだよね」
「ん?」
 丁度その会見がテレビで特集されていたから、一緒にボンヤリと座っていた迅にぽろっと言葉を零してみた。なんで玉狛の迅が本部にいるんだろうと思わなくもないが、自称実力派エリートなので幹部にでも呼ばれたのだろう。
 今日は珍しくぼんち揚げの袋を持っていなかったのか、私と対面している時はたいていバリバリと咀嚼をしている口が、クリアな音で疑問符を発した。
「いや、こっちの話」
「みょうじはそういう所あるよね」
「なにが?」
「ちゃんと喋ろうとしない」
 妙な時間帯だからか人は疎らだ。中高生は学校だし、大学生も講義のある平日の午後14時。ボーダーの優先順位は1に任務、2に学業、3が訓練というのが基本だ。任務があれば学校は遅刻早退欠席可能だし、学校があれば訓練の為だけに休むことは出来ない。大学に進学しなかったのは迅と私だけだし、ここに就職した人はこの時間帯は仕事だろう。私と迅もそう言う意味では仕事中といってもいいだろうが、戦闘員に区分されているため事務仕事や開発業務などの常勤からは外されている。シフトで防衛任務に当たっているから休める時は休め、というのもあるのだろうが、それ以上に同年代は大学に行っている中で進学しなかった私たちを、シフトを組んでいる沢村さんが気遣ってくれているのもあるんだと思う。今は非常時に備えての待機要員として私はここにいる。迅は知らん。
「迅にだけは言われたくない言葉ベスト3だよそれ」
「嘘でしょ」
 軽口を飛ばし合うくらいには付き合いは長い。サイドエフェクトのせいかあまりはっきりと物を言わない迅を皮肉れば少しだけ気まずそうにしながらも、堪えきれないと言わんばかりに笑い声が小さく漏れていた。なにが嬉しいのかは分からなかったがツボだったらしい。こいつMだろうなあとこっそりと思っているのはここだけの話だ。
「嵐山も柿崎も幼いな」
「……迅はそういうところあるよね」
「そう?」
 察しの悪くない迅は先の言葉がなんに対してのものなのか分かっていたうえで聞いていたらしい。
 にや、とそれはそれは悪い顔で薄い唇を引き延ばして笑う迅に、そういえば嵐山は随分とこの男を信用して頼っていたなと思い出す。二言目には「迅が言うならそうなんだろう」なんていうくらいには絶対的なものを寄せている。最初はそこまでサイドエフェクトを信じてもいいのかと思ってしまったが、多分嵐山のそれはサイドエフェクトに対しての信頼というよりは、その可能性が高いということを「話す選択をした迅」に対してのものだ。それに気が付いてからはまあなんとなくは納得したフリをしているが、それでもそこまで迅の判断を信じ切れるかと言われれば私はノーだ。迅は案外抜けているし、空回りすることもある。
「……迅けっこう阿保だしなあ」
「ちょっとまってどうしてそうなったの今」
「嵐山って重たいよねって話」
「ついてけないんだけど」
 それでもきっと、そんな迅のことも嵐山は平等の中に入れてしまえるのだろう。
 そう思うとやっぱり怖いし残酷だなあと思うのだ。


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投稿日:2019/0224
  更新日:2019/0224