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「おー嵐山、大学オツカレサマ」
「ありがとう、みょうじと二人なんて珍しいな」
本部について、一旦飲み物でも買ってから隊室に行こうと食堂へ寄れば、ボックス席に向かい合って座る迅とみょうじがいた。頭の中でそれ程急ぐ仕事がなかったことを確認しそちらに向かえば、来ることが分かっていたかのようにこちらに向いた迅がひらりと手招きをしてくれた。奥に詰めてくれたので甘えて迅の隣に腰を下ろし、そういえばなかなか見ない組み合わせだなと首を傾げる。
「高校出てからは結構時間被るからそんなことないんだなこれが」
「迅が暇してるんでしょ」
「S級捕まえて暇ってお前な」
片手でテーブルに肘をついてそこに顔を乗せていたみょうじの額に迅の人差し指がピン、と跳ねて当たった。一瞬ぎゅっと閉ざされた瞼が細められながらゆっくりと開かれ、かと思えばジトッと不機嫌そうに細められるのを見ながら自分が知らないうちに二人の友人は随分と仲を深めたようだと知った。少なくとも迅はパーソナルスペースがそこまで狭い訳ではないし、みょうじはこんな風にあからさまに嫌悪の感情を表に出すことはしない。
「ええ……びっくりする……私が引き留めてるみたいないいかたやめてくれません?」
「この前もカフェでカップルに間違えられちゃったもんな」
「きいて嵐山、迅また沢村さんに」
「ごめんなさい嵐山にいうのはやめて」
「カップル?」
「なんで嵐山はそこ喰いつくの?」
げんなりしたような声をだすみょうじはその話をあまりしたくないらしい。それでも気になってしまったので迅に視線を送れば「歳の近い男女が二人でいたらそう見えるんだと思うよ」と答えになりきっていない言葉だけで話を終わらせてしまった。へぇ、でも、二人で出かけたのか。
「二人がカップルか……」
「やだ続けるの?」
うーん、と腕を組んで思わず唸る。お似合いだと思うし、なにより友人である二人がそう言う関係になったら嬉しいと思う。けれどどうしてか想像が付かない。
原因は、わかる。二人がボーダーに尽くし過ぎているからだ。少しでも多くの人を救おうと数ある未来の中から最善を選び、守り切れなかったと苦悩する迅。目の前の命が危ぶまれようものなら自分の事を投げだしてまでどうにかしようとするみょうじ。みょうじに関しては捨て身もいいところで、何度かバムスターの腹から気絶して出てきたのを発見したことがある。あれは何度あっても慣れないからいい加減やめてほしいのだが、その腕に一般市民をギュッと掴んでいるのを見ると、どうにも強く言えない。毎回本部長にはこれでもかとお叱りを受けているようだが。
高校の時に二人が進学を選ばなかった時はこのままボロボロになってしまうのではと心配したと同時に、だろうなとも思った。
二人そろってボーダーにすべてを捧げてしまっているのだ。
そんな二人が、特定の誰かを大切に思うのであれば願ってもないことだと思う。少しでも自分本位になってくれればとこの二人に関しては思っているのだ。あまり自分を大事にしない友人二人が、カップル。
「なあ迅」
「ん?」
「もしみょうじと付き合ったとして、みょうじがピンチだったら、それでも迅は多くが助かる方を選ぶだろ?」
「ん?ん〜……まあそうだね」
なんかタイムリーな話になってきた…とぼやくみょうじが、机の上に置かれていたペットボトルを手に取った。言葉の意味は分からなかったが特に言及することなくみょうじの手元をなんとなしに見つめる。細い指が青色のキャップを抓み、クルリと回す。250ml程度しか入っていない小さなそれは、俺ならばすぐに飲み干してしまう量だ。飲み終えたのを確認してあまり綺麗に纏まらない考えを舌先に運んだ。
「みょうじは迅が倒れたと聞いたらどこにいても駆けつけるだろ?」
「え?迅が?迅やられてたら私とっくに緊急脱出してると思うんだけど」
「まあ、例えだと思って」
「まず否定してよ傷ついた」
ええ、といいながらも取りあえずは考えてくれているらしいみょうじを横目に迅をチラリと見ればなぜかバッチリと視線がぶつかる。首を傾げてどうしたのかと動きで問えば、何でもないと同じく動きだけで返される。未来でも見ていたのだろうか、なんとなくだが探るようなそんな視線だったように感じた。
そもそも、と前置きをするように一つため息をついたみょうじが、ペットボトルを手で遊びながら視線を落とす。
「好きな人がいたとして、その人が大変だったら誰でも何とかしたいって思うでしょ」
なんでこの面子で恋バナしてんだろ私、と頬杖をやめて背もたれにぐでんと、ぶつかる様にして体重を預けたみょうじの模範解答のような言葉にだろうなと頷く。みょうじはドライに思われがちだが友人想いだし、案外情に厚い。それを見せたがらないし言葉にもしないから勘違いされがちだが。
だが、逆を言えばそれを自覚しているみょうじは、大切な人を作らない。少なくともボーダーにいる間は、目の前の命を一番にできるように。みょうじなまえとは、そういう女の子だ。そしてそれを分かっている迅も、みょうじの事を一番にするようなことは決してない。自分の事を一番にしてくれるような子を、切り捨てられるような迅ではないからこそ断言できる。
「やっぱり二人が付き合うところは想像しにくいな」
「だろうね」
「みょうじと嵐山は気が合いそうだけどね〜」
は?と眉間に皺を寄せて半ば威嚇するように迅を睨みつけるみょうじを笑いながら、あ、それは想像できそうだと薄らと思った。
2019.2.24
投稿日:2019/0224
更新日:2019/0224