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「頼むよぉおおお!!もうすぐ俺は死ぬんだ!!だから結婚してくれぇええええ!!」
最初に彼を見たのは偶然で、遠目にその絶叫と日の下できらきらとしている金糸を眺めた程度ではあったがひどくいらついたのを覚えている。その言葉を向けられていたのはこの街の娘なのだろう、野菜の入った籠を片手にどうにか縋り付いてくるそれを引きはがそうと躍起になっていた。縋り付いている男は発している大声に、珍しい髪色も相まってそれはもう注目を浴びていた。山吹色だ、渡来人という顔立ちでも無いしなにより言葉が流暢なので、あんな髪色でも恐らくは日本人なのだろう。その腰に刀が差さっていて、羽織の下に黒い見慣れた隊服が見えたのでああ鬼殺の隊員なのかと気が付き、それでは確実に日本人だろうなと確信を持つ。流石に渡来人が隊に入隊していれば下っ端の私と言えど耳には入ってくるだろう。そんな話は聞いたことが無い。自分の所属する組織の人間だと分かりはしたが、それでもあの騒音と衆目に晒されていられるほど余力のなかった私は、見てみぬふりをして通り過ぎたのだ。それが最初に見た彼の姿だった。
だから合同任務のために鬼が出るという藤の家で待機していて、ぶつかった拍子に大丈夫かと声をかけてしまったときは素直に「うわ」っと思ったしなんなら声にもそれが出ていた。しかしそんな私の声をかき消すほどに、それはもうこちらの予想を裏切ることなく彼の口は大音量を吐き出していた。
「女の子!?嘘!?しかも今俺に言った!?結婚してくれぇ!!」
意味が分からん。
どういう流れで求婚されたのか、目の前で聞いていたはずの私が分からなかった。その後も彼の口が止まることはなく、これからの任務に対しての不安やいままで当たった任務、入隊試験に関しての苦言などが永遠とも思われるくらいに続いた。どうやら今年入隊したばかりらしい。彼がいう事が本当なのであれば彼は後輩なのだろう。一つ下に入隊してきた新人は全員死んでしまったと聞いていたので、今年入ったのかと自分の入隊が既に二年を超えていたことにこっそりと驚いた。彼の身の上やらの話になってきたときに、放って置けばこのままずっと話し続けそうだと、彼のものであろう鎹(珍しいことに雀だった)が助けを求めるように私の視界に映りこんできたため、一瞬間があいた時を見計らって口を挟んだ。
「名前は?」
「はい!我妻善逸です!!」
「ふーん」
「ふーん!?斬新すぎじゃないその返事は!?俺名乗ったよね!?君の名前教えてよぉ!!」
話を続けるかと思いきや、一瞬の間も開けず答えを返してきたことを少し意外に思いながら、ハキハキと答えられた名を頭の名で反復する。はたして彼に次に会うことはあるんだろうかと思いながらも一応はこの後の任務に軋轢を生まないためにも記憶した。
ぎゃあぎゃあと叫び、こちらの名前を聞いてくる我妻を放置し、日が落ちる時間を確認するために空を見上げる。まだ少し早いかもしれないがそろそろ鬼が出ると言われる場所まで向かってもいいかもしれないと立ち上がれば、間髪入れずにええ!?と声が背中にぶつけられた。
「え、どこ行くの?」
「任務」
「俺いまついたばっかだよ!?」
知ってるよ待ってたもの。そう続けようとするも、私の口が開く前に言葉が絶叫で叩きつけられる。
「嫌だぁああ!!死ぬ!死んじゃう!!今度こそ俺は死ぬんだ!!休む間もなくすぐに任務なんて行ってごらんよ!?どうなるかわかるだろう!俺やっと休めると思ってここに来たのにこんなのあんまりだ!!せめて結婚してくれよ!!」
終いにはボロボロと泣きながら膝をついた我妻の頭のてっぺんをボンヤリと見下ろす。息をするかのように会話の中に結婚してくれと織り交ぜてくるので、癖なのだろうと納得することにした。なんだろうなぁ、やっぱりどこかお腹のそこでぐつぐつと煮え立つようななにかがある。そのせいか酷く冷たい声が出てしまった。
「じゃあいいよ」
「なにが!?」
「来なくていいよ」
ごろ、と音がしそうなほどに大粒の涙が右目から転がり落ちたのを横目に、足を進める。今年の入隊という事はほんの一月足らずしか鬼狩りとして生活をしていないという事だ。そんな新人と組まされたという事はそこまで難しい任務でもないだろうしまあ仮に私が死んだとしても鎹が鬼の特徴やらなんやらを我妻に伝えてくれさえすればその後はどうとでもなる。我妻の手に負えないようであれば鎹が判断して応援を呼ぶだろうし。なんて考えながら藤の家を出るために家の人を探していれば、突然真後ろから「行けばいいんだろぉ!?」と鼓膜を破くつもりだとしか思えないほどの声量で我妻に叫ばれた。というか急に後ろにいて吃驚した。
投稿日:2019/1117
更新日:2019/1117