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*家庭崩壊的な意味で化物語の羽川みたいな境遇の夢主です突然の事に、あまりにも驚いて思考するよりも先に私の防衛本能に近いものが働いてそれに結構な力を込めて噛みついていた。そのことに向こうが驚いたからやっとここで私の思考は動き出して、それと同時に平手打ちを力の限りで繰り出していた。
相手は唐突に痛みが訪れて驚いていたのか反射的に目を痛みによって閉じてしまっていたその瞬間に容赦なく追撃を受けたものだから脳が事態を処理するのが遅れているのかポカンとした顔をしていた。正直に言ってそんな顔ですら苛立ちを助長させるものでしかない、だってこいつは私がどういった反応をするかなんて、どんな思いをするかなんてわかっていてこういうことをしているのだから。
ごしごしと唇を手の甲でふき取る様に擦っても感触が消えない。とくに人の肉に噛みついた感触の残ったそれが不快で仕方がなく盛大に眉を寄せて、早くうがいをしたいと思った。私に殴られることなんてそれこそ予想通りだっただろうに。だからせめてその顔が得意げに笑い出す前に踵を返して少し離れた位置で自販機を持ち上げたまま見事に固まっているバーテンダー服を着た友人の元に歩みを進めた。ぜひとも私がそちらにいってから後ろにいる奴に投げつけてくれ。なにか罵声でも捨て置いてやろうと思ったがなにを言ったところでそれすらもあいつの予想に沿うのだとしたらそれすらも鬱陶しくて結局なにも口にはしなかった。
上記の胸糞悪い内容から察してくれた人も多いとは思うのだが、一応説明しておこうと思う。説明と言ってもそれは一言で済んでしまう行動であって、紛れもなく私は被害者であるわけであるがこの歳になってそんなものの一つ二つで涙を流すほど少女でもないのであえてここまでその単語を口にしなかったことに深い意味はない。けれどももしそこに理由をつけろというのなら先にも言ったように単純に胸糞悪かったからだ。
キスをされた、折原臨也に。
間違っても私と折原臨也はそういうことをするような間柄ではない。小学校の時からの幼馴染みでご近所さんだった私と静雄は、幼稚園小学校中学校時代を共に過ごした仲である。高校は別々の所に進学したが彼の生活が今まで以上に荒れ狂ったことは彼の弟から聞くだけ聞いていたがその原因である折原臨也という存在までは知らなかった。実家こそ池袋だったが私は高校から寮に入っていたため本当に静雄の弟である幽からの情報しか池袋に住んでいる彼らの近状を知る術がなかったのだ。因みに静雄の口からわざわざ頭にきた話だとか愚痴だとかは漏れないのでそういった情報源が彼しかいなかったのだ。静雄が私にしてくれた話といえば幽のことだとか、逆に私を心配するようなそんな言葉ばかりだ。
しかし問題はその静雄がいかに荒れて危険ない高校生活を送っていたかという話を教えてくれる唯一の幽が恐ろしく言葉少ないということだ。多分幽の場合は静雄が察しがいいのが余計に拍車をかけてしまったのもあるのだと思うが、口にしなくても大抵のことは相手に通じると思い込んでいるところがあるんだと思う。それか相手に伝えることを頭で考えているだけで伝えた気になっているのか。現にこの折原臨也の存在についても当の幽は「いってなかったっけ」とボンヤリと言われたくらいだ、しっかりしてくれ。
平和島静雄という男は、その名前に似合わずとんでもない馬鹿力を有している。勿論本来はその名に似合う人であることも確かだ、誰だって頭にくる出来事はあるだろうしイライラすることもあるだろう。静雄はそれが少しだけ多いだけであって、一緒にいる様になれば彼が理不尽に怒りをぶつけてくる人でないことも分かるしなにより優しいのも分かる。
しかし彼の名は体を表さなかった。何時だったかはよく覚えていないが気が付いたらなんでもかんでも持ち上げてぶん投げられるようになっていて、そりゃ初めは驚いたしビビりはしたがそれ以上に一緒にいる時間が長かったのが幸いしたのか私は慣れて上手く順応できた。私自身に怒りが向いたことだってあった。その時は運よく私は怪我をしなかったが静雄は大けがをした。というか基本的に静雄のほうが怪我をして入院を繰り返していた。
そんな力のせい、というより短気で自分でも抑えられないうちに手が出てしまう静雄には中学のころから喧嘩をすることが増えていた。それは私自身の眼で見ていたので知ってはいたがよりそういったことが過激化してくるであろう高校生に上がった時に静雄の環境がどうなってくるのか想像できてしまったので私なりに心配していたのだ。
それが高校の最後の長期休みの時に彼らに会いに来た時にやっと折原臨也という存在を知った。それまでだって彼らに会いに何度も来ていたのに、その存在を知るに至るまでそれまでの年月をかけてしまった。
後から幽を責める様なことを静雄に言ってしまったのだが、その時にやっと幽にあえてそれを隠されていたことを知って、幽にまで心配される私っていったい何なのだと少し喧嘩になったのは余談だ。兄でさえそんな風に持て余しているような人間を私に寄せたくなかったそうだ。変に可愛いことをされてしまったのでそれを聞いた日は少し高いプリンを買っていって三人で食べた。すべて悟った様にため息をつく幽は私より嫌に大人びて見えて悔しかったからデコピンしてやった、あとそうやってすぐに幽を庇うあたりやっぱり静雄はいいお兄ちゃんだ。
話が大幅にそれてしまった。しかし私とこのバーテンダーの格好をしている男との関係は分かってくれたと思う。つまりはそんな大事な幼馴染みをわざと傷つける様なことを率先して行う折原臨也という人間があまり好きではないということだ。折原臨也との出会いなんて絶対に語りたくないから平和島兄妹のことをこんなにも長々と語ったわけではない。いや、だからと言って折原臨也との出会いなんて絶対に口にはしないが、もう忘却の彼方だし。
静雄は私が目の前に来てもものの見事に固まったままで、自販を持ち上げる際にずれたのか左目の上部分がサングラスに隠されることなくこちらを見ているのが分かった。空気を読んだようにずれているサングラスが面白くてそれを隠して「降ろせば?」と言えば綺麗に五秒置いて前触れもなく降ろすではなく、真後ろにそのままの体制のまま微動だにせずに自販を落とした静雄にこちらが驚かされてしまった。急な騒音にびくりと体を揺らせばゆっくりと上体を起こす。一気に背の高くなった静雄の顔を見上げれば驚くほどに表情が抜け落ちていることに気が付いて目を見張る。徐に右手を持ち上げたと思ったら袖口を指で伸ばし、私が先ほどした様にぐいぐいと口を擦られる。その手つきは以外にも丁寧で珍しく痛くはない。そして不意にふわりと笑った静雄は「なまえ」と私の名を呼びながら柔らかい笑顔を向けてきた。
「あいつ殺してくるな」
「いいよファーストキス静雄だし」
幼稚園の時で記憶にもないがそうらしい。
それになんだか今までにないキレ方をしている静雄をこのまま野に放してしまえば今までにない大惨事になると私の直感が言っている、多分池袋が地図から消える。
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926