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※及川さんが最低です一応、私は及川徹という男の彼女、である。
中学校の頃、三年間及川とはクラスが同じだった。バドミントン部であった私は同じ体育館で練習している及川を良く目にしていたし、その頑張りをかっこいいと思えたし、三年になってからは部長としての責務に追われながらもバレーに対して直向きな態度を変えない及川をみて、なんて一途で真っすぐな人なんだろうと尊敬すら覚えていた。そうしてついに三年の最後の県大会で準優勝をし、個人賞まで貰ったと知った時はあんなに頑張れる及川を改めて凄い奴だと思いなおしたし、やっぱり尊敬した。そこに淡い恋が混じったのは、きっと早かったと思う。正直初めはキャーキャー言われる顔だけの奴だと思ってあまり好印象を持たなかった。それが遅くまで当たり前の様に練習する姿をみて、誰よりも朝早くに来てコートを整備しているのを見つけて、休日の車通りの少ない道でロードワークをしているのを遠目に見かけて。汗だくの必死な及川は、みっともないくらいに必死で怖いくらいに目は勝利を渇望していた。同じ運動部ならではの、と言えばいいのだろうか。纏う空気がこちらが怯まされそうになるほどの威圧感を孕んだのは三年に上がる少し前で、そんな彼を私はいつしか身勝手に応援していて、そしてひっそりと好きになっていた。
元々、モテる奴だった。そうかこんなに凄い及川なんだからモテるのなんて当たり前だったのだと私はその時になってやっと及川がモテる理由を知った。同じ体育館で違う部活とはいえ練習していたというのに気が付くのにこんなにも遅れてしまって私は見る目がないのだな、と実感した。だって及川の事を好きだという女の子は及川が入学してすぐには及川に黄色い声を上げていたのだから。
けれど私は微塵も及川に告白する気なんてものは持ち合わせていなかった。そもそも及川はバレーにあんなに全身全霊をかけているのだからそこに他者が入り込む隙間なんてないと思ったのだ。私のような、及川の様に部活にそこまで全てをかけられなかった私なんかが邪魔できないと、したくないと思った。勿論中学の時から及川はモテていた訳だから、彼女の一人や二人いた。噂で耳にしたり直接目にしたり及川本人から聞いたり。傷つくことはなかった。及川がその子といてバレーも今まで通り出来るのならばそれでいいと思った。及川がバレーをあの目のまましているのならばきっとそれが及川にとっての最大の幸福だから、それが妨げられないのならばそれでいいと殊勝なことを思えた。こんなにも私は善人だったのだなと少し驚いたと同時、そこまで及川のことが好きなのかと呆気にもとられた。
そしてそんな私が、どういう訳か及川の彼女という立場に今いるのは、そんな気持ちが溢れに溢れてしまった事が要因だったりする。中学の卒業式の時に、もう及川ともお別れかと思ったときに一年の時だけ同じクラスだった岩泉と人の全くいない練習場所だった体育館でばったりと会って、自然と及川の話になってしまったときに私はどういう訳か岩泉に心情を語ってしまっていた。そりゃもう岩泉が赤面してしまうくらいには赤裸々に、丸裸に。多分、岩泉は及川と進学先も同じだろうと分かっていたから岩泉に及川とバレーの事よろしくねと伝えたくなってしまったのだと思う。なんだかこの言い方では及川がバレーが付き合ってるみたいだ、変なのと思いながらもあながち私の中の勝手な解釈では間違っていなかったのでそれでいいかと思わせてもらった。
けれど誤算だったのは、私と及川達の進学先が同じだったことと、及川が私の後ろで岩泉以上に顔を真っ赤にして私の話を聞いていてしまったという事だった。けれど、あれから二年とちょっと経った私は及川と付き合ってしまった事を大いに後悔することになる。
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926