1


「ちょっと、ねえ、なまえってば!当てられてるって……!!」
「んぁ……?」
「当てられてんの!読めって!こっから!!」
 小声で怒鳴るという器用な真似をしている隣の席の友人を凄いなぁなんて思っていたらばこん、と頭の上に衝撃。痛い、とつっぷしたままの位置から顔だけを動かしてその犯人を見やればあれまぁ。怒り心頭の古典の先生が教科書片手に目の前に立っていらっしゃった。にっこりと笑われたのでへらりと笑顔を返す、なんて愛想は私は生憎持ち合わせていないので真顔で何の用だと無言で訴える。いや、何の用もなにも分かり切ってはいるのだが。
「みょうじ、お前は職員室でも有名だぞ、入学早々堂々と居眠りをする阿保がいるってな」
「いやぁそれほどでもないです」
「ほれ、いいからこっからここまで読め馬鹿」
 ご丁寧に教科書をこちらの向きにして行を指さす先生に礼を言いつつ姿勢を正す。自分の下に埋もれていた教科書のページはその前の前のページのまま止まっていていつの間にこんなに進んだのか、とだるくなりながらもページを捲る。なんだかんだいって怒りもしないこの先生のことは結構好きで、クスクスと笑い声の溢れるクラスの事も気に入っている。勿論、心配性でビビりの隣のみっちゃんの事も割と好きだ。未だにおろおろしていてそのうち私の代わりに謝りだしそうだと高校に入ってからの友人に後でノートを見せてもらおうと思いながら思案する。
「……鷸曰く、『今日雨ふらず、明日雨ふらずんば、即ち死蚌有らん』と。蚌も亦鷸に謂ひて曰はく、『今日出でず、明日出でずんば、即ち死鷸有らん』と」
「お前予習もちゃんとやってんのに何で寝ちゃうかなぁ」
「あんまりにも先生の声が寝心地がよくて」
「立たせるぞ」
 誉めたのになんで、と思ったが先生はそのまま授業に戻ってしまったので大人しく教科書を眺める。いつの間に漁夫の利なんて入ったんだ、あ、寝てたときか。さっきまで虎の威を借るやってた気がしてたのに。まぁいいかと教科書を置いて頬杖をついて窓の外を眺める。あっぱれなほどの晴天だ。天晴晴天。窓側のこの席は席替えをしてゲットした席であり、これで一番後ろだったらなと思わずを得ないが贅沢を言ってもしょうがない。出席番号だと一番前のしかも教卓の真ん前なのでそれに比べればどこの席も天国だろう。
「じゃあ続き、高尾」
「うぇ!?センセ次!次当てて!お願い次!」
「そうか、じゃあ続き高尾」
「ちょぉお!」
 そんな声とクラスメイトの笑い声をBGMに私は再び夢の中に落ちていった。


× - return - 

投稿日:2017/0926
  更新日:2017/0926