朝のあれは物凄い勢いで噂になったらしい。らしいというのは私が休み時間ずっと寝ているせいでそれを直接聞いていないからで、それを隣の席の友人からだったり前の席の男子にだったり、私が起きている隙に彼らがそれを教えてくれたからだ。どうやら別のクラスからも私の顔をわざわざ拝みに来ているレベルらしい。因みにあのあと緑間の相手をするのも話を聞くのも面倒になってしまった私は急激にぶり返してきた眠気に素直に従って緑間を放置して教室へと向かった。
流石の私もお昼くらいは起き上がる。よってクラスに妙に人だかりができているそれがやっとその噂とやらの影響なのだと知る。うわぁ、え、なんかあきらか先輩っぽい人もいる。男も女も関係なしに教室を覗く団体を寝起きのあまり働かない頭でなにも考えずにがん見してしまっていたらしく、隣の席の友人に咎められた。けれど別に睨んではない。しかし、彼女の停止も虚しく時すでに遅し。目の合っていたらしい(眠たくて目が合っていたという感覚はなかった)体格のいい先輩らしい数名が私めがけて教室へ侵入してきたのだ。朝適当に買ってたココア味の豆乳にストローを差し込んでこちらに向かってくる彼らをぼぅっと見ていれば一緒にご飯を食べていたはずの友人は知らぬ間に避難していた。いつの間に。
「みょうじ、ってお前?」
なにこのデジャヴと思いながらも朝よりはそこまで眠たくなかった私はこくりと頷いてそれに答えた。するともう一人の首が痛くなるほど背の高い人がご丁寧に名乗ってくれた。私が座っているので余計に身長差は顕著だ。三年の大坪さんに、最初に名前を聞いてきたのが同じく三年の宮地さんというらしい二人はバスケ部だとも言った。どう考えても二人がここにいる原因は緑間だろうと私は悟った。宮地さんはあからさまなほどにニヤニヤとした笑みを浮かべながら先ほどまで友人が座っていた席にどかりと腰を下ろした。え、居座るの?座ったところで未だに上にある視線にどんだけデカいんだよと思いながら豆乳を振る前にストローを刺してしまったと全く持って関係のないことを考えてしまった。
「へー、なるほどなぁ」
「なにがですか」
「つうか、お前緑間の頼みバッサリだったらしいじゃねえか、よくやったな」
どうしてか上機嫌に私を誉める宮地さんの笑顔がなんだか黒い気がしたが触らぬ神に祟りなし、気にしたら負けだと目を大坪さんへと向ければそれは正解だったようで視線で「悪いな」と謝られた。大坪さんいい人。ストローを無理やりパックの中で左右に回して悪あがきをしながら、やっとこの人たち例の緑間の先輩か、と思い至る。言葉から今朝の事もすでに知っているようであるし直球で「あれなんだったんですか」と聞けば宮地さんが馬鹿笑いしたのでどんだけ笑いの沸点低いんだと自分の膝をバンバンと叩く彼を煩い人と認識した。
「あー、あいつのあれな」
「ビビりました、知らない相手になんですかあれ」
「ぶっは緑間のこと知らねーとか」
語尾に大量に草が生えまくっている宮地さんに除草剤をぶっかけてしまいたいと思ってしまったが彼をスルーして大坪さんに視線を向ければあっさりと答えが返ってきた。
「おは朝の占い知ってる?」
「おはあさ」
なんだそれと首を傾げれば更に宮地さんが過呼吸に陥った。そのまま帰らぬ人となってくださいと思ってしまいながら朝、と言葉がついているあたり朝のなにかだろうと当たりをつける。「え、知らないの?朝のニュース番組の…」と驚きながらも説明をくれた大坪さんにだったら知らなくて当然だと納得する。朝からテレビなんて喧しいもの見ない。親は見ているだろうが父が家を出る時間に私は寝ているし、母は私がこんなのを分かり切っているので私が起きる時間帯にはテレビは切ってくれている。よって知らない。
「まぁ、緑間がその占いの信者というか」
「うっわ電波」
思わず漏れた本音に宮地さんはついにお亡くなりになられた。ぴくぴくと机に突っ伏して動かなくなってしまったが呼吸だけはひーひーと聞こえるのでそれだけツボだったのだろうが誰がこの話を聞いてって同じことを思うだろうと私的には意味不明な彼のツボの入り方にバスケ部ってこんなのばっかりなんだろうなという結論に至った。だが大坪さんまで笑いを耐えた顔をしていたので私が可笑しいようなそんな感覚も覚えたが見ぬふりをさせてもらった。
「それで、今日のあいつ、ラッキーアイテム、というかラッキーパーソン?がな」
「宮地さん大坪さん!!何してんすか!」
そこに乱入者が現れた。多分今一番いいところだった気がすると思いながらも私の心はすでにお昼ご飯食べたい眠たいにシフトしつつあったのでそこまで気にすることなくその人物へと目を向ける。えっと、あれだ、あの、同じクラスメイトだ。喋った記憶はボンヤリとだがあるが名前は知らないし席は遠いのであまり接点のない人物だったが賑やかな人柄だというくらいは知っている。これでもし彼が煩わしいと思わせる騒ぎ方をする人物であれば私もブラックリストに載せて名前も憶えていたかもしれないが彼は別にそうではない。どちらかというと授業中に彼に注意が向けばその分堂々と眠れるし、眠気を促す声をしているので気にも留めていなかった。
なんて名前だっただろうか、多分一回聞けば「ああ」ってなると思うんだけどなと思いながらぼんやりと彼を見ていたのだが、不意にその視線が私とかち合った。ちゅーっと豆乳を飲み込みながらなんて名前だっけなぁーと考えていたのだが、どうしてか目が合って刹那、ボン、と音がするほどに顔を赤くした彼に流石に驚かされた。
「え?どした」
「え、や、あ、いや」
「え?」
驚きでそのまま思っていたことを口にしてしまっていたのだが明確な答えが返ってこず、それどころかかえって顔を赤くそして青く、また赤くした彼はとうとう口をぱくぱくとさせるだけになってしまった。なんだおい、どうしたよ。この事態に先輩二人そろって笑っていたのでますます意味が分からなくなる。というか、この二人と知り合いという事は彼もバスケ部っぽいなと思ったところでポケットからバスケットボールのキーホルダーが覗いているのを発見してそれを確信に替えた。
結局げらげら笑いっぱなしだった宮地さんが笑いながら彼を引き連れて帰ってしまって、大坪さんもそれについていってしまう。台風のようだったと思いながらやっとパンの袋を開けて、ふと「おは朝の占い」という大坪さんの言いかけた言葉を思い出す。そもそもそちらがメインで彼らはここに来ていたのだろうにと思いながら携帯をなんとなしに開く。おは朝占いで検索をかければすぐさま今朝のものであろう結果が表示されたのでそれをスクロールしていく。緑間の星座なんぞ知らなかったという事実にここにきて気が付いたが見れば基本的には人ではなく物がアイテムになっていたので分かるだろうと目を進める。というかこれ酷いな。「北海道産利尻昆布」、「沖縄限定アグー豚キティちゃん」、「鹿威し」。訳が分からない。
そしてひとつ、人らしき項目を七位の星座の横に見つける。
「(友人の好きな人)」
なんじゃこれ、と携帯をすぐに閉じてしまった私はこのことをすぐに忘れ去ってしまう。深く考えなかったのは単に、友人が戻ってきたというのもあるし知らない人と話し疲れて眠気も増してきていたことも原因ではあったが、あまり考えてはいけないような、そんな気がしたのだ。同時に赤い顔をした彼がどうしてか脳裏にちらついたがそれを振りはらってメロンパンに噛り付いた。そして放課後にもう一度緑間に頼まれ、結局はバスケ部の練習を見学する羽目になるのだがそれはあと数時間後の話だ。
2015.10.3