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 人生で初めての告白という奴は、あっけないほどに一瞬で終わってしまった。それこそ告白をすると決めてから、ずっと心臓が痛くて緊張で眠れなくだってなったし、意識していないとすぐに先輩の事で頭がいっぱいになってしまって大変だった。誰にも言わずにこっそりと育てたこの恋は初恋で、今まで友人の恋の話を聞いてばかりいたが共感できずにいた気持ちを一気にすべて理解できてしまった。苦しい、頭がその人でいっぱいになる、笑う顔を見ると嬉しいけれどやっぱり苦しい、だけどなんだか毎日が楽しい。これらを教えてくれた友人たちにも言わずにいたことを少しだけ申し訳なくも思ったけれど、誰かにこの気持ちを話したいと思えなかった。先輩にも伝えていない思いを別の誰かに先に明かすことが不器用な私にとってはなんだか耐えられなかったのだ。
「す、きです」
 その気持ちを遂に、私は告げた。大きく立派に育ってしまっていた気持ちをこんな一言に詰め込んで、表現しきれない自分にヤキモチしながらもそれでも言った。誰にも言わなかったせいなのかは分からないが私の中で成熟していくように暖められて膨れ上がった感情にこれ以上黙っているのは無理だと感じた。先輩が女の子を苦手としていることも知っているが、一年共に部活をしている中で少しだが距離だって近づいたのは勘違いではない。だからといって笠松先輩が私の事をどう思ってくれていたかは分からないが、多分私はすこしうぬぼれていたんだと思う。単純に先輩は私の事を部活の後輩として可愛がってくれていたというのに都合よく思いこんで。気持ちを告げた時の先輩の顔は今でも思い出せる。困惑、驚愕、そして最後に顰められた表情と小さく聞こえた「悪い」という言葉に反射的に謝り返して逃げる様にその場から離れた。
 でも、うん。これでよかったのかもしれない。気持ちを本人に知ってもらうという事で独りよがりだった感情がこれ以上吹きだまっていくことはないだろうと感じた。こっそりと涙を流して、そうして一緒に気持ちを流せられる理由ができたのだから。簡単に好きな気持ちも変えられないし今まで通り気持ちも募るだろう。けれど今度はその感情の容器に穴を開けてもらえた。出口を作ってもらえた。だったらこれ以上望んではいけない、甘えてはいけない。少しずつではあるけれど、笠松先輩への気持ちに整理を付けていこうとボロボロと落ちる涙をそのままにボンヤリと思った。

 最初は尊敬の気持ちが大きかったんだと思う。入学して色々あってバスケ部にマネージャーとして入学して、二つ上の学年ばかりがレギュラーを占領している中で唯一スタメンに抜擢されて、しかもゲームメイクを託されていて。その責任感、誇り、プライド全てが先輩の空気を独特に作り上げていて単純にかっこいいと思った。勿論、その頃は先輩だけにそういった感情を抱いていたと言う訳ではない。三年の先輩にだって当たり前に尊敬を抱いたし、かっこいいと思ったし頼りがいも感じた。
 しかし先輩、笠松先輩だけに抱く感情がある時からふと変化していった。それはその年のIH。負けてしまった入学して初めての公式戦だ。神奈川であんなにもするすると勝ち上がって簡単に決勝まで行って優勝をもぎ取った海常は全国の舞台の初戦で惜しくも敗退したのだ。神奈川の県大会での猛進や当時の三年生への期待度などから優勝候補と謳われていた海常の負けというのはそれは騒がれ、そして最後の失点に繋がるプレーをしてしまった笠松先輩への風当たりは今思い出しても息の仕方を忘れてしまうほどに酷いものだった。最後まで競っていたというのもあって盛り上がりも選手の気持ちの高まりも一塩、そのぶんあんなにも眩しかった三年生の凶弾も並ではなかった。
 どうして彼だけが責められるのかと叫びたくなるほどに心無い言葉がその場の空気によって先輩たちの口から零れる。ベンチで先輩マネージャーの横でスコアの手伝いをしていた私にはどうしても笠松先輩だけがこうして暴言を浴びせられるのか分からなかった。だって、4Q始まってすぐに相手の3Pを許してしまったのは副キャプテンだったし、中盤こちらに流れが来かけていた時にファールをしてしまったのはフォアードの先輩だ。勿論、ゲームの流れや時間帯、得点差などから同じミスでもその重みが違うというのは当然だ。
 けれど、だけれどもこのチームは負けを一人に押し付けるようなそんなチームだと私は思っていなかったのだ。二つ上にいたマネージャーの先輩ですら笠松先輩に恨み言をいいながら引退してしまった。大会を見に来ていたのだというOBにまでその波は広がっていきその中心に立たされ続けている笠松先輩に誰もなにもしてあげられなかった。三年生の気持ちの高ぶりが落ち着いた時にはもう遅く、ついに笠松先輩が部活へ来なくなってしまった。正直このままやめてしまうんだろうと、そんな風に思ってしまっていた。悔しかったし悲しかった。けれどたかが入部して間もないマネージャーになにか出来ることも言える言葉もないに等しく私と同じように覇気の薄れてしまった体育館で黙々と練習をこなす日が続いた。
 しかしそんな日は一瞬にしてひっくり返る。なんと笠松先輩が新キャプテンとして戻ってきたのだ。その時の前を見つめる瞳は鋭すぎるくらいで、しゃんと真っすぐ起立する笠松先輩の存在はどこか物足りなかった体育館へ喝を入れた。三年の先輩もOBからも、私の耳に届く範囲では笠松先輩を責める言葉は止んだ。勿論それが表面的なものだったという事は私も流石に分かるし、笠松先輩は未だにずっと一人であの悪意の真ん中に立っているのだろう。けれど、それでもバスケを手放さなかった先輩の気持ちの強さ、バスケに対する思いを知ってしまって、尊敬以上に羨ましさが勝った。私も強くなりたいと思わされた。強くなりたいと感じたのは私だけではなかったようで同級の早川などは今まで以上に暑苦しくなったし、中村も自主練時間を長くしたりメニューを増やしたりと変わっていった。そうやって人の気持ちを、チームの気持ちを動かして束ねてしまった笠松先輩に自覚こそなかったが恋をしてしまったのはこのころだと思う。


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投稿日:2017/0926
  更新日:2017/0926