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後輩のマネージャーであるみょうじに告白をされてしまった。顔を真っ赤にして声を震わせて、必死な表情で。普段から物静かであまり感情が表情に出にくいのだと思っていたが全く持ってそんなことなどなかった。表情どころか全身からあいつの気持ちがひしひしと伝わってきてしまって死ぬと思いながらなにか言わねばと熱くなってきた顔を無視して考える。何度か告白はされたことがあったがこんなのは初めてだ、こっちの目を真っすぐに見つめてくる瞳は緊張からか少し潤んでいてなんだか嫌に圧倒させられてしまった。こんな顔すんだな、お前。そんなことを思ったがふとフラッシュバックの様にこいつが表情を顕著にしたことがあったことを思い出した。たしか、そうだあの時。忘れもしない去年のIHが終わった直後の控室で先輩たちからの言葉を噛みしめながら自分のせいで負けたという悔しさなんかじゃ収まり切らない感情と戦っていた時、隅っこで下唇を噛みながらこちらを見ているみょうじに目が行った。その目がどうにも周りから浮いていたせいで自然とそうなったのかもしれない。どう見ても俺を責めている目ではなく、何かに耐える様に口を閉じているみょうじは異様だった。みょうじがどんなことを考えているのか全く分からなかったが苦しそうな事だけは理解できた。あぁ、こいつも俺のせいでこんな顔しちまってんのかと思ってしまいながらも、けれど絶対に下を向かないみょうじに漠然と奮い立たされたのを覚えている。
二度目はキャプテンとして部活へ戻った時、あの時は正直自分でも感情を整理しきれていなかったし、なによりもバスケから離れようとすら思っていた自分の考えを捨て切れてすらいなかった。監督から話を聞いて辞めていくという無責任さも理解はしたしそんな自分に腹も立った。けれどそこに感情はついてきておらず、固まっていたのは覚悟だけだった。これからも針の筵に座り続けてやろうというそれだ。そんな不甲斐ない俺に、またみょうじだけ向けてくる視線が違った。眩しそうにこちらを見、そしてどこか迎える様なそれだったのだ。温かくも真っ直ぐなそれに驚きつつも、ああ俺はこのチームに、バスケの元も戻ってきたのだとやっと実感させられた。今思えば可笑しな話だ、バッシュに足を通した時でもなく、体育館へ踏み入れた時でもなく、ボールに触れた時でもなくみょうじの目を見た時にそう思ったのだから。
話した回数もそこまで多い訳ではない。みょうじの口数が多いという訳ではないし俺からも部活の話がなければ話すことはない。だからまさかそんな後輩から告白されるだなんて思いもしなかったし、なによりみょうじにそんな素振り微塵もなかった。それがどうだ、なにかで覆って隠していたのかと疑ってしまうほどに鮮烈に強烈に感じてしまった感情に酔ってしまいそうなほどだ。
なにか言わねば、と口を開こうとするも此方を射抜くみょうじの真っすぐ過ぎるほどの眼のせいで上手く頭が働かない。浮かぶのはどうしてか様々なこいつの表情ばかり。あの時の真っすぐ過ぎる表情や後輩が入ってきたときの優しそうな顔だったり、シュートが決まった時の嬉しそうな笑顔だったり。反らされない目に逸らせない視線。それでも何とかこじ開けた口のその隙間から言葉を押し出した。
「わる、い」
そう告げた時、さぁっと変化したみょうじの表情にこちらの頭も冷えていくようだった。「すみませんでした」と早口にそういって去ってしまった背中に思わず手を伸ばしてしまったがそれにみょうじが気が付く様子は全くない。でも、だめだ、あの表情はダメだ。あいつは多分、今の数分で俺にぶつけていた感情達を捨ててしまうつもりだ。俺への思いを捨てるつもりだ。そう分かってしまうほど一瞬で固くなった顔と伝わることのなくなった感情に気持ちを剥き出しにしてくれたこいつの勇気を一気に俺がへし折ったのだと悟った。
それはダメだ、嫌だと思ってしまった。もうそう直感的に思ってしまったのだから伸ばしてしまった手の意味も恐らくはそういうことなのだろう。どうしてかみょうじの表情をくっきりと覚えているというのも多分。それに気が付いてしまって思わずその場で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。おい、おい、いつからだじゃあ。しかもなんだこれ、女で後輩のあいつに言わせた挙句に振った後に気が付くなんてどんだけかっこつかないんだ俺。バクバクと煩い心臓がしゃがみ込んだせいで籠って生々しく感じる。顔がさっきの比じゃないくらいに熱い、死にそうだ、というか死にてぇ。
「……だっせ」
恐らく、みょうじは俺の事を買いかぶりすぎている。あいつが思っているよりも俺は何にもできやしないしこんなにも情けない。でもそうだな、気が付いてしまったのだから、今度は俺が動くべきだろう。どうかそんな俺がみょうじが望む、あいつが好きになってくれた俺だったらいいとそんなことを考えてしまうくらいには俺も重傷らしかった。現時点で相当みっともないのは分かっているがそれでも追ってやろうと覚悟した。キャプテンとなったあの時とは違い、そこには俺自身でも驚くくらいの感情が乗っていてついに笑ってしまった。
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926