1
※誰もが知る頼れる薬研ニキなんて幻想だったんだなお話なので注意、かっこいい薬研さんのままでいてほしい方はUターン推奨暖かな声に呼び起される様にして意識が縁どられていく。そうして輪郭が露わになってきたころに自分という物が何者であり、どういった存在であるかを認知する。目覚めるという感覚すら初めての物でその全てが目新しくも愛おしい。自分が記憶していた出来事に対して情が湧き、様々な感情が溢れかえってくるようではあったがその中でも喜びという思いは一塩で、それが美しい桜の花びらとなって目視できるほどになっていることが恥ずかしくも誇らしかった。
「私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟達ですな」
自分の声というのもを初めて使って、主となる目の前の人物を見下ろす。それは細く白く、弱々しい見た目をしていた。大きな目は自分の姿が薄らと映るほど光を集めており、感じる霊力は真綿の様に柔らかくそして温かい。ああ、まさにこの少女に私は呼ばれたのだろうと瞬間で理解して思わず笑みが零れた。しかしながら、そんな朗らかな時間は一瞬にして崩れ去る。主である少女自身によって。
「粟田、口?」
「はい」
「おとうと……?」
「……?はい」
様子が可笑しいと気が付いたのは彼女の瞳が驚きによって見開かれていたのだと気が付いたのと同時で、そして言葉のやり取りに茫然としたそれが含まれていたからだ。すわ何事だと不安を感じてしまう。なにか、間違えただろうかと自分の言動を振り返るも思い当たる節がない。なにせつい数秒前だ、自分が顕現したのは。不安と戦う一期一振をよそに、ふらふらとおぼつかない足取りで主である少女は立ち上がり、巫女の装束で躓きそうになってすらいる。それに慌てて咄嗟に駆け寄るという紳士的な行動をして見せた一期一振は、唐突に視界がギュインと揺れ動きなにやら苦しいと感じさせられた。何が起こったのか全く理解できないまま目を白黒させて必死に思考を働かせる。つい先ほど人の姿となったばかりで本当に何が何だか分からなかったのだ。
「あな、たが……」
目の前に主の姿がある、とその前髪がサラリと流れるのを見つけて気が付く。先ほどまでは見下ろしていたはずのその少女と近い視線に自分が低くなっているのだとそこでやっと苦しい理由が胸倉を小さな白い手で掴まれているからだと知る。ひ弱であれ、霊力は軒並み高いのであろう主のその拘束を解けるはずもなくなすがままに困惑させられてしまうが目の前の主の小さな肩がふるふると震えていることを目視し、余計に混乱してしまった。
「は、はい?」
「粟田口の、長男様なんですよね……」
「え、は、はぁ……そうですが……主?」
恐る恐る俯いている主の顔を覗き込もうとしたのだがその前にぱっと顔を上げた少女にぎょっとしつつ、至近距離で下から睨み上げられたことに思わず口をぎゅっと閉じた。
「ど、どんなご教育をなさっているんですか粟田口は……!!」
そのぶるぶると震える悲鳴に似た声に働かない頭を何とか動かして思ったのは弟に何があったのだろうかという更なる不安だった。
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926