3
「きゃー!!」「洒落になんねぇんだよテメェあ”ぁん!?なんってことしやがったんだ死ぬか死にたいかそうか死ねぇええ!!」
「ぎゃぁあーたっけて雪音ぇええあああ!!」
何が何やら、だった。突然訳も話されずにさっきの少女を探して来いと言われてやっと見つけても話が噛み合わずに苦労させられるし戻ってきても大黒さんもなにも話してくれない、今思えば故意に多く語らなかったのだろうとまで思うほどになにも言わず、悲しそうな顔をして頭を下げていた時は驚いてしまった。小福さんとこの人が気を病んでいるようなことをあまり見たことがなかったからかもしれない、そういえば小福さんはまだ出かけているのだろうか。こんな時間に神器も持たずに。いや黒器だと意味がないのか。
どこかで、そう手を掴まれたままの状態で彼女が口にしたのはきっと大黒さんへの質問だったのだと思う。「どこかで会ったことがあるか」そんな質問だったのだろうなと自然と思えるがどうやら本当に初対面らしいと分かったのは大黒さんが自己紹介をしたからだった。
酷く、つらそうな顔で。その質問をとぎる様にしてやってきた夜トに結局その質問も、大黒さんの答えも聞くことはできなかったが俺は見てしまった。見てはいけなかったのかもしれない、「どこかで」と彼女が言ったときのその顔はそう思ってしまったくらいには泣いてしまいそうな顔だった。
「ゆ、雪音お前さっき刺したことゆるしてやっからだから俺を助けろーー!!雪器ぃいいいいい!!」
うぐ、とつい図星をつかれたような気になってしまって顔を反らして知らぬ存ぜぬを通す。コンクリートにすでに半身を埋められた主を放っておくというのも如何なものかと思ったがなにせ大黒さんの怒りが尋常ではないのだから。触らぬ神に祟りなしだ。
思い当たる節がない訳ではなかった、というよりそれくらいしか思い至らないのだから原因はわかっている。ちらり、と横に目線をやれば怯えきった様子で俺の背後に隠れる奴。顔に名前があるのだなんて初めて見たがこんなに分かりやすいところにあっては大変だろうなと「海」と名付けられた頬を見る。あんなに近づいて手なんて繋いでくるのが悪いんだ、俺は悪くない。未だに叫んでいる夜トにうっせぇ!と叫び返して大黒さんを呼ぶ。結局は主を助ける手立てをしてしまうのだから俺も少しは刺してしまったことに罪悪感を覚えているのだろう。
「大黒さん、うちのジャージがなにしたんだよ!?せめてそれ教えてくれよ!」
ガーっとまたコンクリを流し始めた大黒さんにもうやめてやってくれとそう問いかければびくりと固まって作業をとめてくれたのでホッとしつつ、緊張しながら答えを待つ。心無なしかどんよりと影を背負ってしまった大黒さんにビビりながらもぐるりとこちらに振り返った彼に身構えて、ごくりと喉を鳴らした。そして、衝撃の事実をその口から聞く。
「雪音その子よく見ろて……此岸の子なんだよ!」
どばぁーっと涙を流し始めた大黒さんに一瞬引いてしまいそうになりながらも言われた言葉を内心で深く考えてみる。
此岸、あちら側でなくこちら側の、生きているものの事。俺たちはその中間の狭間に生きていている死霊と言われるものだ。死霊が神に名をつけられて神器として仕えることが許されれば彼岸の妖と戦う術を、生きる術を与えられる。俺は夜トに「雪」という名を貰った夜トの神器で、だから……。
横にいて大黒さんに指さされたせいでびくりと身を固めた彼女に目を向ければ彼女の澄んだ目の色と目が合って、そうかこいつは生きているのかとボンヤリ考えて。
「はぁあああ!?」
それはあり得ないのではないのだろうか、だって、ということはこいつは此岸のもので生きていて死んでいなくて、だから。
じゃあなんでこんなに目立つところに俺と同じように名があるのだ、だいたい此岸の生きている人間を神器にすることなどできるのだろうか。だれがいったいこんなバカなことをしでかしたんだろう。出来るかどうか以前にその行為が途轍もなく馬鹿な行為だということだけは分かった。わざわざ生きている人間をこちら側に引き込んでいるようなものだ、だいたいそんなの原理でいえば野良にしてしまうようなものではないのだろうか。だって名前がある、それなのに上から名を付けられるなんて。パクパクと驚きで口を開閉して同じように隣で俺の声に驚いていた彼女を指さしてその顔にくっきりと浮かぶ名に信じられないような気持ちが浮かんだ。
そして考える、小福さんや大黒さんの態度の訳は未だに分からないままだが、ここにつれてくるまでに話が噛み合わなかった理由、新人の神器にしたって自分が死んだなんて思っていないような言動、そして大黒さんの夜トに対するこの態度。
まさかとは思った、信じたくなかった。死んだような目で大黒さんに確認するようにして目で問いかければそうだとばかりに頷かれてしまい、泣きそうになってしまった。
「大黒さん、やってくれ」
「ゆぎね”ぇ”ぇえ!!」
2016.4.1
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926