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「あ、りがとうございま……す」
 こたつの前で正座をしながら出されたお茶に全力でビビってしまうのを耐えながらなんとかお礼を告げれば正面に座ったおっかない顔を顰めた男性にやはり命の危険を感じた、こわい。
 私をここに連れてきておいてじゃあ俺はこれで、とさっさといなくなろうとした少年に縋り付いて逃がさんとばかりに彼の腕を拘束して隣に座ってもらってなかったら多分ちびってた、だってすっごく睨まれてる。人は見た目で判断してはいけないと分かってはいるのだがだからと言って全くその見た目で感じるところをなくせと言われたって無理なのだ。大人しく隣にいてくれている彼に多大な感謝としつつ、ついでにこの場をどうにかしてくれと念じればそれが通じたのか口を開いてくれた。
「なぁ大黒さん、小福さんは?」
「あ、あぁちょっとな」
 会話がそれで終わってしまい頑張れや少年……!と理不尽に思ってしまう。コフクさんってボスなの?そこんとこどうなの、あ、やっぱり知りたくない知らないままでいたい。あまりにも落ち着かなくてきょろきょろと目を動かせば招き猫や達磨の置物、こけしにタンチョウの掛け軸、その掛け軸にひっかける様にして妙に歪んだ不格好な折鶴を見つけ随分と和風な家だと気が付く。畳で縁側が背中側にあることからもそれは分かっていたのだが、畳の匂いと薄らとする煙草の匂いがなぜだかしっくりとしているように思えて、人の家なのだと実感する。多分目の前の人が煙草を吸うんだろう、どうしよう一瞬で根性焼きの言葉が浮かんでしまった。
 やっぱり、落ち着かない。目に見えて私がそわそわとしていることが分かったのか隣の少年に肘でどつかれてしまうがしょうがないだろう。
「それで……こいつ新しい神器なの?」
 私の緊張が伝わったのか分からないが少年まで少しそわそわした様子になってきてしまって申し訳なく思うのだが、話を続けてくれるのはありがたい、本当にありがとう。なにか私が粗相をしたというのならば謝ればいいのだし私もすぐにでも謝ってしまいたいのだが心のこもっていない言葉だけの謝罪などしたくない。というかそんなことする勇気もない。
しかしその一瞬後には私は目の前の男性の印象を覆されることになったのだ。
「……え」
「すまない……!!」
 バッと立ち上がったと思ったら炬燵からずれて頭を深く下げられる、言わば土下座だった。こんなことされたことがなかったので本当に呆気にとられてしまって、言葉が出ない。それこそ、それが心からの言葉であると痛いほどに伝わってきたのだ。ほんのりと震えをもったその声は床に向けられてくぐもっていたがそれでも真っすぐ私に向かって届いた。無理やり掴んでいた手がびくりと震えたことにつられる様にしてそちらを見れば彼も相当驚いたような顔をしていて、夕焼け色の瞳が見開かれていた。
 そしてもう一度すまない、と小さな声で言われてハッと我に返ってやめてくださいと焦って頭を上げてもらうようにと声を出す、情けないほどに動揺した声だったがその言葉にゆっくりと頭を上げてくれた怖い顔をしていたはずの彼を、もう怖いなんて思うことはなさそうだった。やっぱり人を見た目で判断してはいけないのだなと再確認する。伏せられたままの瞳はまだ少し暗かったが謝罪される覚えがないのにそんなに心髄に謝られてしまっても困ってしまうのだ。
 なにか躊躇ったように一瞬間があった後に口を開いた彼は自分の名を“大黒”と言った。大黒さん、やはり聞き覚えはなかった。思い切って聞いてしまえと握ったままの少年の手から力を貰うように強く握って口を開く。
「あ、の……どこかで」
「おい雪音ぇええええ!!!さっきからジッミーにチクチクしてんだけど!?」
「うっわぁ!?」
 スッパーン!!と勢いよく襖を開け放ったと同時になにかを叫びながら侵入してきた人物にまた盛大に驚いてしまって思わずのけ反ってしまい、同時に隣の少年も驚いたのか突然立ち上がったのをきっかけに捕まえていた手が離れる。ギャーギャーと一気に騒がしくなってしまった空間に戸惑いを覚えながらも、既視感を感じたなにかに気を取られる。あれ、なんだろう…。そう思ったときに騒いでいた二人の眼が徐にこちらに向いて、夕方の橙と晴天のような青が目に入って昨日の記憶を一気に思い出す。そうだ、そういえばこんな背格好だった気がするし髪形も、顔も見覚えがありすぎた。
「昨日の酔っぱらい!?」
 思わず指を指してしまい、いっけねと思ったが驚いてしまったのだ、だってどういうめぐりあわせなのだろうかこれは。できればもう二度とお会いしたくなかったというのが本音だったりするのだがそれは流石に失礼すぎるだろうか。というか咄嗟に酔っぱらいなんて呼んでしまったことも相当失礼に当たるのだが後になってから気が付いたのでそれまでは全く気にしていなかった。
 そして私の驚き以上に彼らは驚いたのか、ぎょっとしたように私と酔っぱらいとを見比べる。酔っぱらいの彼がなにやら呟いたようだったが生憎その言葉は私までは届かなかった。そしてその刹那、真っ先に我に返ったのであろう大黒さんによってまた一気に喧騒にこの部屋は満ちた。
「お、まえのせいかごらぁあ!!」
「ブヘラッ!」
 あ、やっぱり怖い。思いっきり殴られて飛んでいった酔っぱらいを見てそう思ってしまったのはどうしようもなかった。



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投稿日:2017/0926
  更新日:2017/0926