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チラチラ、とそれで隠しているつもりなのかと言わんばかりに不躾な視線が何度も此方に向けられる。私が気が付くあたりからして一般人の者ばかりなのであるうけれど嫌な気分である。その元凶ともいえる男はそんな視線も何のその、絶対に気が付いているにもかかわらずガン無視である。その隣で申し訳なさそうに身をすくませているイズミを見ていれば多少は心が和んだが、それでも我慢ならなかった。「なんであんたがいんのよ」
「それは俺のセリフだ、甘味は嫌いだろうお前」
「イズミと二人っきりで女の子同士のお茶会に乱入してきて何様よ」
「女の子同士……?」
「てめえぶっ飛ばす表出やがれ」
「ま、まあまあ」
うちはイタチ、イズミと同じうちは一族で警部部隊隊長、つまりはうちは族長の息子。その身分に違わず天才ともてはやされる優秀さ、加えて女子にきゃーきゃー騒がれる中世的な整った顔。アカデミー時代から気に喰わなかったがどうしてかこうしてイズミと会う時にエンカウントする率が上がりその感情は増した。立ち上がり眼を鋭くして拳を握ればちらりと私を一瞥して鼻で笑ったイタチはそのまま視線を団子に落とした。腹立つ。しかしこれ以上イズミを困らせることも本意ではないので震える拳を机に叩きつけることも我慢して大人しく椅子に座った。
よくもまああんな甘ったるいものをこういくつも摂取できるものだ。既にイタチが注文した団子は三皿を超えており、寂しそうに串が皿の端に寄せられている。これでもかと餡のかけられたみたらしを綺麗に口に運ぶイタチの口元は、一瞬その餡でぬらりと光るがそれすらも勿体ないのかすぐに赤い舌がそれを舐めとって口内に運ばれていく。見ているだけで胸やけがしそうだ。すっかり冷めてしまったお茶を飲み、はあ、と息をつく。確かにイタチは周りが言うように整った顔をしているとは思う。
しかしだ、内面に問題がありすぎる。傍若無人、まさにそれ。ある程度年上を敬っているのは態度からして伝わってくるが、こういった女性ばかりの茶屋に平然と入ってくることもそうだが自分が優れているとこいつは理解している。傲慢ととれる態度すら、こいつは自分がそれをとってもいいと理解したうえでそんな態度をとる。質が悪いことこの上ない。最初にこいつと話した時なんて酷かった。私がイタチと気が合わないと判断したのもこの時だ。
アカデミーでの手裏剣術の授業、的の中心に当たったそれに喜んだ私に、丁度隣にいたイタチはつらつらとはしゃぐ私に釘を深々とさした。私もはしゃぎ過ぎていたせいで隣にいたイタチに「どうどう!?」なんて聞いてしまったのも悪かった。
『刺さりがあまい、手首の力だけで投げている、フォームが悪い、肩を悪くする…普段から鍛錬を怠っている証拠だ』
そう真顔で言い切り的へと投げたイタチの手裏剣は的を貫通していた。きゃあ、と湧く女の子達。あ、こいつ嫌いと心底思った。なにより一番腹が立つのはイタチが悪気も、善意もなく言葉をぶつけてくることだ。年々その図々しさは増し、私に対してのそれはもはや人を相手にするものではなくなっている。恐らくイタチは私を珍獣か何かだと思っている。
「なんだそんなに見てきて、団子はやらんぞ」
「いらんわ、ねえイズミもう行かない?」
すでに食べ終わっているイズミにそう声をかければちょっと迷うような素振りを見せる。イズミは優しすぎる、こんなスカポンタンに対してまで優しくする必要はないだろうに。
「なまえってばまたそんな風に……あっ」
あ、と小さい口を開いて私の後ろを見るイズミにつられて振り返れば、そこにはここの所お世話になっている並足ライドウさんの姿があった。
あ、とイズミと同じように口を開いたが、しかし私の口から声は音としてなりそこなった。顔面を大きな手の平でがっしりとわしづかみされ、「んも」という妙な音しか出なかった。指圧が凄まじい、いたい、食い込んでる。
「よおなまえ…なんか俺に言うことないのか」
「んんんん、んあ」
「分かんねーし口くっつけるな阿保」
理不尽の極み。今日も餓鬼大将っぷりは絶好調であるらしい。ライドウさんは簡単に言えば先生である。以前任務で一緒になった時にその剣術に惚れこみ、弟子入りを志願した故稽古を付けてもらっている。とはいっても何度も断られ続けたのだがしつこいほどに志願した結果、それが火影様の耳に入り、火影様から一言貰ったらしい。その時は稽古と銘打って半分殺されかけたのは今ではいい思い出だ。面倒だなんだといいつつもしっかりと稽古を付けてくれる当たり面倒見はよく、お陰様で生傷の絶えない毎日を送っている。因みに最近では他里からも“黒刀のライドウ”として名を馳せているのだとか。初めて耳にした時は黒糖だと思い込んで相当笑った、そしてそれがライドウさんにどうしてかばれてボコられたが。しかし未だに火影様から提言されたことを根に持っているらしく半ばパシリにされているのも否めない、いつか仕返しする、絶対。
そんな私の考えを見抜いたのかなんなのか、一瞬緩めてくれたと思った握力を頬と潰すように手を滑らせて容赦なく指を立てる。ほんっと容赦ないなこの人。
「くそぶさいくだな」
「ぶっほあふ(ぶっ飛ばす)」
唾でも手の平に吹っかけてやろうかと思ったがライドウさんならそこまで気にせず私の顔面でそれを拭うだろう。まじこの人絶対結婚できないと思う。モゴモゴとした言葉だったが言いたいことは伝わったらしくゲスい顔で見下すように笑って私の鼻をガッシリと一度抓んでから解放してくれた。顔の皮膚がところどころ赤くなっていること間違いなしだ。勢いよく話された鼻が痛く、片手で押さえて恨みがましい視線を向けたが返って逆効果だったらしい、「明日覚えていろよ」という笑顔を向けられた。ぞわっとした。
「んで?いう事は?」
「あははライドウさんこんにちは(絶対ぶっ飛ばす)」
「おうこんちわ、で?」
「……なんですかなんかありましたっけ」
「昨日の本」
「あ」
「あ、じゃねーよ!」
ごん、と拳骨をくらう。い〜、と両手で頭を抱えて上目に見上げればそれはもう恐ろしい笑顔で拳を握っているライドウさんがいてひえ、と声が出た。凶悪過ぎる笑顔だ、絶対ビンゴブックに載ってるでしょ今の顔。
昨日の本、と言われてすぐに思ったのはやべ、である。昨日ライドウさんにいつもの如くしごかれた後、本屋へとパシリに使われた。頼まれた本は火の国忍具一覧、の今年度版。分厚いそれを容赦なく私に頼むあたりあの人ホントにいつかやり返してやると決意しながら、あんな人だから彼女なんていたことないんだろうなと内心で嘲笑ってみる。そうだ、とその時に思ったのは悪意の籠った親切心でどうせ彼女もいない状態であればご無沙汰なんだろうなんて思って組んだ変化の印。そのままライドウさんの顔でR18コーナーにずかずか入り、一番目立つところにあったエロ本を一緒に買った。タイトルはきちんと見ていなかったが全裸の女性が凄いポーズで映っていたのは確認していたので中を確認しなくともそういう本だと分かるものだった。それを本屋の紙袋にいれたまま、上忍待機所のライドウさんのロッカーにアオバさんに頼んで入れておいてもらったのだ。
「待機所で見ました!?周りから白い目で見られました!?」
「残念ながら嫌な予感がして家で開けたよ!お前やっぱり図ってやがったな」
「つまんな」
「まじで覚えてろよお前」
言いたいことはそれだけだったのか謝る気配のない私に顔を引きつらせ、背中を向けるライドウさん。んべー、と舌をだして見送れば不意に振り返ったライドウさんに思いっきりその様子を目撃される。
「あんま調子乗ってっと犯すぞ」
「ごめんなさい!!」
思わずその場で土下座しそうだった、今までで一番怖かった。
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926