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「またか」そう、さも呆れたという声色でため息までつけてそうおっしゃったのは我が二番隊の隊長である四楓院夜一隊長である。私自身は護廷十三番隊ではなく隠密機動の身であるためこの御方の元について随分と長い。護廷十三番隊出身であれば、移席というのもあり本人の意志がままならないことだってある。だから私は隠密出身でありながら護廷十三番隊の二番隊に席次までいただいている自身の境遇から、四楓院隊長に腕を買われていただいていると自負しているし、それに答えたいとも思っている。
だがしかし、まさかあの人がその移席になるだなんて本当に思ってもいなかったのだ。それもすんなりと、なんの未練もなく。そしてその開いた席に私が昇格させられてしまえばおもうところもそれなりにある訳である。まさか自分自身であの人がいた場所を埋めることになるだなんて思いもよらなかったしなにより隠密の出である私がこんなに上の席次につくだなんて護廷としてはあまりよろしくないだろうに、四楓院隊長はそんなことなどまったく気にしていない様子でまたもう一つため息をついた。
「そんなに儂の任命した三席が気に入らんのか」
「そんな訳ないじゃないですか……!」
「なら喜助か」
そう、浦原部隊長。つい先日までの私の一つ上の席次についていた上司の名前である。それまで四席で第四分隊である偵察索敵部隊、略して偵敵部隊の部隊長を任されていた私であったが、第三分隊の監理隊の隊長である浦原部隊長には本当にお世話になったのだ。そもそも四席に上がるまえは第三分隊に所属していたし、その前、つまりは浦原部隊長が護廷十三番隊二番隊に入隊した少し後に私も隠密に入隊したので本当に長いことずっと先輩として慕ってきた。隠密に限らず護廷のことだって沢山教えてもらった。あまり面倒見がいいとは言えないし愛想がいいという性格でもなかった浦原部隊長だったけれど、それでも私が部隊長にあがれたのは紛れもなく彼のお陰である。それなのにお別れすらもさせてもらえず、知らぬうちに部屋はもぬけの殻、今日からここを使えと言われ始めて彼が二番隊からいなくなったと知った。先輩として本当に尊敬していた、へら、と相手を油断させるような空気の出し方も彼を真似して覚えた。
どこまでも私の先を行く彼を少しでも支えたいと、四楓院隊長に思うように彼にもそんな思いを勝手に抱いた。それは多分、いやいやながらも私のことを決して見捨てたりしなかったからだと思う。慕っていたからこそ彼にあまり良く思われていないのは分かっていたが、まさか移隊となる時にこんな、捨て置かれるような感覚を味合されるとは思わなかった。
きちんと御礼を申し上げたい、お別れを言いたい、今後の活躍を願いたい。しかしそれをさせてくれないからこんな風に四楓院隊長に言及までされてしまうくらい腑抜けてしまっているんだと思う。
「のうなまえ、おぬしはどうしてああも冷たくされて慕っていられる?」
「つめたく……ですか?」
「冷たかったじゃろどう見ても」
ばり、とどこからか取り出した煎餅をかじりながらじとっと此方を見てくる四楓院隊長に怯まされる。隊長の眼は眼力が強すぎると思う。一瞬目を泳がせ、そして四楓院隊長の言葉を考える。冷たく、はされていたのかもしれないし私自身彼には嫌われていると自覚している。他の人には気の抜かせるような言動や空気を作ってまで接しているのに私に対してだけはそれを決してしなかった。その分必死でくらいついていたおかげでここまで成長させてもらったのも事実であるし、なにより教えを乞うた時には正面から向かい合ってくれた。部下としては、役には立てていたと思いたい。
「四楓院隊長のお役に立てるまでになれたのは浦原部隊長のお陰ですし…多くのものを貰いました」
「そうかのー、おぬし自身の努力の賜物じゃろ」
「隊長にそういっていただけて光栄です」
「儂はつまらん」
時折、四楓院隊長はこうしてなにかを訴えるようにジッと私を見据える。なんとなく、言いたいことが分かる当たり私もこの方に付き添って本当に長くなったのだと実感し、けれども彼女が求めるものが私には不相応なのも分かっていた。
「隊長」
「……」
「四楓院隊長」
ついにはバリバリという煎餅の咀嚼音だけが部屋に響き、うんともすんとも言わなくなってしまった隊長にはあ、とわざとらしくため息をつく。そうはいっても隊長のこういった行動を嬉しく思ってしまうあたり私もまだまだだし、この人には敵わないと実感する。
「夜一さん」
「おぬしは素直で愛いのにのぉ、どうしたもんか」
昔の様に呼べば、正解だと言わんばかりにニヤニヤと笑い、食べかけの煎餅を口に突っ込まれたが、隊長の言っている言葉の意味がよく呑み込めず、口に入ってきた煎餅を噛み砕いてもどうにも違和感が残ったのだった。遠くから砕蜂副隊長の声が聞こえた時にはその違和感と一緒に四楓院隊長も目の前からいなくなっていた。
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926