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 おぬしのせいで寂しがっておったぞ、そう夜一さんに教えてもらってまあそうだろうなと思った。なにせ本当になにも言わず前触れもなく消え失せてやったのだからそうなるのも仕方がない、というよりそうなるようにしたのはこちらの思った通りであった。義理堅い彼女、なまえさんがそう思わない筈がないのだ。逆に言えばきちんと別れを告げ、こちらからなにか言葉でも残していれば彼女は恐らく満足し、そしてボクのいない日常にすぐにでも適応するだろう。
 それが、気に喰わない。夜一さんにはそのあたりの心境も全て筒抜けなのだろうけれどあくまでボクとなまえさんの問題であるからかそこまで首も突っ込んでは来ないでいれくれている。流石に夜一さんの可愛い部下でもある彼女が落ち込んでいるとなれば苦言の一言も漏れてしまったのだろう、その結果が先ほどの一言に繋がる。そしてその言葉がボクの望んでいるのもだという事も、恐らくは分かっているのだからあの人は本当に怖い。
 最初はちょこちょことついてくる小さい姿を面白がっていたように思う。次第にそれが鬱陶しくなったのも事実で、仮面を付けずに突っ返すように接した。けれど健気にもあの薄暗い部隊のなかで懸命に「夜一さん」の為に必死になる彼女を、いつしか放って置けなくなったのはボクの方からだった。このままでは近いうちに死んでしまうだろう、大きな怪我で取り返しが付かなくなるだろう。それが気に喰わなくて厳しく鍛えた。恐ろしいほどに教えたことをするすると吸収していったなまえさんは今や二番隊の三番手にまで成長した。
 自分で言うのもなんだが、なまえさんに怖がられ嫌われても仕方がないような態度を取っていた。それは鬱陶しく思っていた時の名残で、けれどボク自身の本性でもあった。そんな人から嫌がられるようなボクの本性を前にしても彼女は僕について回るのを辞めようとはしなかった。
「(そう、ボクを受け入れたアナタが悪い)」
 それが彼女にとって取るに足らないことだったのだとしてもボクにとってはそうではなかった。疎まれる性格をしているのも、人を寄せ付けない空気を放っているのも自覚している。それを隠す術を身につけたのは単にその方が都合がいいからであるのだが、当時はまだその術も疲れるものでしかなく、加えて鬱陶しい子供に纏わりつかれては簡単に猫が脱げてしまった。それなのに、それを何でもないかのようにして気にも留めなかったなまえさんにどれだけボクが動揺したのかも知らない彼女が少し憎い。
 あの子が悪い。ボクといい勝負な不愛想な癖に、ボクがなにか教えてあげるたびに嬉しそうに笑うような不用心さが悪いのだ。それがすべて夜一さんの為だったとしてもだ。
 せいぜい少しでも長いこと、ボクの事で悩んで寂しがればいい。気に留めて思い出していればいい。それ以上にこちらはかき乱されて砕かれてボロボロなんだからそれくらいしてもらわねば割に合わない。
 なまえさんが三席に上がったという報告を聞いて、やっと蛆虫の巣に行けるとそれまで足を向けなかったそこへ行くために準備を始める。ああでも、もう少ししてからの方がいいだろうか。その方が彼女の思考をもう少し独占していられるだろう、そう考えて自分も随分人間臭く感情に振り回されているなあと理性で制御して考えている確信犯のくせに演技たらしく笑ってみた。
 さて、その時には他人行儀に笑って見せるのが効果的だろうか。



2017.1.23



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投稿日:2017/0926
  更新日:2017/0926