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 侍女の仕事を奪って姉の部屋のシーツを洗濯していると聞き、探してみれば案の定白いシーツにくるまって悦に浸っているなまえを見つけた。
「白瑛様の匂い……」
「有罪」
「お慈悲を!!」
 悪いことをしている自覚は多少あるらしい、ボソリと耳元で判決を下せば面白いくらいに素早く土下座をしたなまえの丸まった背中にため息を落とす。さすがというかシーツの一片たりとも床に付いていないのが気持ち悪い。こと姉に関する全てに対して常人離れして見せるなまえは、ここ最近姉不足が祟っているのか奇行に走りつつある。こいつは人間をやめる気なのかもしれないと薄らと懸念している。
「おおおおおどろきました白龍様でしたか……」
「とうとう白昼堂々犯行に至ったな」
「つい」
「不届き者め」
 脳天に軽く平手を入れれば「あいたっ!」と両手で痛がるなまえは昼間の太陽が指しているこの場所にも関わらず青白い顔をしていた。眠れていないのか目の下にくっきりと隈までこさえている。どれだけ姉が好きなんだ、引くものがある。床に正座したままのなまえを見下ろしていて、ふと胸元に目がいってしまったのはシーツを器用に膝元で畳んでいたときに襟が一度引っ掛かったように開いたからだ、つまりは不可抗力だった……いや、なにか詰めたのかもしれない。
 真っ先にそれを疑った。そもそもなまえは姉と歳が同じはずで、もう成長など望めないはず。しかし明らかに以前よりも膨らんでいるそこについ不躾に視線を送ってしまい、ハッとして目を逸らす。
考えてみれば、背も少し伸びたような気も…と変化を見つけてしまいある疑惑が浮かんだ。
「……なあなまえ、お前歳は幾つだった?」
「珍しいですね、白龍様が私何かのことをお聞きになるなんて」
 白龍様と同じですよ、という言葉に驚愕する。同時におかしい、と考える。昔から皇族につく従者のうちの一人は、必ず幼い頃からともに過ごす事になっており、歳は皇族より少し上か同じかと決まっていたはずだ。姉でいう幼子からの従者は紛れもなくなまえだというのになまえの歳を考えると辻褄が合わない。姉と俺の年の差は五つ。その五つの間姉は従者なしということになるし仮になまえが産まれた後にしても何も出来ない赤子が姉に付けられるはずもない。
「どうかなさいました?」
「……いや」
 言われてみればこの外見で姉と歳が同じという方が無理があるし、なまえは間違いなく俺と歳が同じなんだろう。
だめだ、もう考えるのが面倒だとそこで考えを放棄してふらふらと自室へ戻る俺の背中を不思議そうに首を傾げながら、しかししっかりとシーツに顔を半分埋めて見送るなまえの姿がそこにはあった。

 姉が帰城した時、都合悪くなまえは不在だった。真っ先に迎えに来なかったなまえを不思議に思ったらしい姉が不在を聞いて少し残念そうにしているのを見て非常に複雑な気持ちにさせられた。しかしこれ幸いと気になってきたことを姉に聞いてみることが出来たのでなまえがいなくて良かったと思った。
「覚えていないのですか?」
「何をです?」
しかし驚いたように目を丸くして「まあ、」と零す姉の反応に更に疑問が増えていく。覚えていない?何をだ。
「なまえは元々貴方の従者でしょう」
「は?」
「本当に覚えていないのね」
 呆れたようにこちらを見る姉に言葉を返したかったのだが驚きが勝ってしまい言葉が出てこない。姉の隣で聞いていた青舜も少し驚いたような顔をしているので言葉を促すように視線を送れば案の定「初耳です……」と驚愕している。姉にほら見ろとばかりに顔を向ければあら?と首を傾げていた。
「貴方がなまえを虐めてばかりで、挙句に「いらない」と言ったのよ?」
 青舜からの「なんて酷いことを」という視線を黙殺し、記憶を掘り返そうとしたが本当に記憶になかった。姉の言うことが本当なら確かに自分でも酷いと思う。思わず片手で顔を覆ってしまう、頭痛がしそうだ。
「姫様の従者は……」
「なまえの兄よ」
 その表情からその者がもう既にこの世にはいないのだと察し、口篭る。しかしなまえに兄などいたのか。
「あの大火の時に」
「そう、でしたか」
 しかも、自分達の兄と同じ事件で死んでしまっているらしい事実にそろそろ許容範囲を超えそうだった。そんな俺を置いてけぼりに母の進言であの事件のあとなまえは姉に仕えるようになったのだと続ける姉に待ったをかけたかった。
「今更欲しいと言ってもあげないわよ」
 いらないです、と口を付きそうになってから先程の話しを思い出してしまい今度こそ頭が痛くなった。

2017.2.9


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投稿日:2017/0926
  更新日:2017/0926