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毎度のように無理な修理期間を要求してきた安室にイライラしつつ、無理な部分は無理だと伝え、出来るだけ相手の要望に応えてタクシーを呼び出して追い出してやった。あいつが毎回タクシーで帰るのは知っているので勝手に呼んでやったのである、お陰で早く帰ってくれた。なんだかんだ車好きらしく、車談義で居座られてしまうのだが今回は追い返せた、勝利である。それにしてもこれを一週間で直せと言われた時は本気で殴ってしまった、流石にまずかったなと反省しつつなにを意味の分からないことを言っているんだこの男はという怒りをぶつけられてすっきりした本音もあって複雑な心境である。あれを一週間とか、安室は宇宙人なのかと思うくらいには意味の分からない発言だった。なんでこれで一週間でなおると思ったのだろうか、あいつは骨折しても三日で治るとでもいうのか。馬鹿だろうか。軽く見ただけでも一ヵ月は最低でもかかると伝えたのだが恐らく促進で電話がかかってくるだろうことが予想できたので気合で三週間で終わらせてやろうと書類をまとめながら決める。最初に来店してきたときに携帯番号を教えてしまったのが運のツキだ、当時の私は車の話が出来る同年代に浮かれてしまったのである、馬鹿だった。
そんなこんなで二週間と四日という驚異の時間で修理を終わらせた私に安室はなんだかんだと称賛の言葉をつらつらと述べて大金を置いて行った。金払いは異常に良いからどこぞのボンボンなのだろうと予想しているが実際の所は知らない。職業は公務員と書類には書かれているのでそうなのだろうが父親が官僚とかでそのコネで自分も……とかだろうか。うっわ嫌いだ。大体にして修理を期間よりも早く終わらせた私に対しての称賛がわざとらしくて返って苛立ったというのが在る。「やっぱり流石ですねえ、車ばかり弄っているプロなだけある」だとか「これで動きも完璧なんですから本当に車に関しては僕以上ですよあなた」だとか。くっそ腹立つ。それ以外がからきしダメなのは私自身で分かっているのだが他人に言われると腹が立つ。でも修理を終えた車を迎えに来た安室を罵ることなど出来るはずもなく、黙ってその時間が終わるのを待っているのが毎度のことだ。あそこまで車を壊してくるからその衝撃で罵声を向けてしまうがあれが私のデフォルトではない、むしろ腐っても客、しかも金払いのいい客を罵れる神経をそこまで持ち合わせていない。入庫のときはあれだ、怒りで我を忘れているだけなのでノーカウントとして扱ってほしい。
もう来るなーとRXを見送って(いや、RXだけならいつでも来てほしい)またいつも通りの日常に戻る。安室が来るとてんやわんやになるので異常事態といってもいいのだ、えまーじゃんしー。
だがしかし、そんな日常を悉くぶっ壊していくのがこの安室と言う男なのだ。
「……え??」
普段と違い、レッカーで引っ張られてきたのは間違いなくつい先日完璧に直したマツダRX-7である。それが、半壊していた。助手席側の扉になにかぶつけたのか……いや、あの凹み方からして衝突事故だろう、車が助手席側に突っ込んできたんだ。よってぐしゃりと潰れたそれは当然ながら運転できる機能すら可笑しくなってしまったらしく、初めて引っ張られてここに運び込まれた。後続でやってきたのはタクシーで、降りてきたのは当たり前に安室。流石に彼も気まずいのか申し訳なさそうな顔をしているが、それどころじゃなかった。
「はぁあああ!?」
「すみません」
「い、いや!?は!?RXが!!え!!このまえ納車したばっか……え!?」
「すみませんって」
「なんって酷い男に買われてしまったのRX……!!こんな!!ああ!!魅惑のボディが……!!こんな体にされて……!!」
「誤解を招く言い回しを辞めてください」
「どんな運転したらこうなるの!?ふざけてんの!?なんで無傷あんたは!?本当に怪我してないの!?」
「あなたのそう言う優しいところ結構可愛いと思いますよ僕」
もう一度すみません、と笑う安室の顔は今まで見ていたすかしたものとはなんだか違った。
投稿日:2017/0926
更新日:2017/0926