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 先ほどのことを消化しようとぼんやりと考えていた時に、スパーン!と些か乱暴に教室の戸が弾かれるように開いた。ギョッとして顔を向けた先に苛立った顔をした爆豪くんがいて慌てて顔を背けたが恐ろしく低い声で「おい」とまた声をかけられてしまい、眼だけは見ない様に顔を彼の方へとまた向けた。なんでまた戻ってきたんだろうか。折角の誕生日だろうに。
「これもお前んだろ」
「……なんで爆豪くんが持ってるの」
「あ?んなこたどうでもいいだろ」
 あの日緑谷くんのノートと一緒に置いてきたハンカチをどうしてか爆豪くんが持っていて思わず問いかけてしまったがガラの悪い声で黙殺させられた。爆豪くんがそれを持っていることもそうだが、それがどうして私の物だと分かったのかの方が気になってきていたが、それもこの調子ではどうでもいいだろうと一蹴されてお終いだと口を閉じた。
「なんでデクのノートなんざ拾いに行った」
 え?である。思わず顔を上げなかったことを褒めたたえたい。爆豪くんのことに関しての予知を余計だと言われるのは分かる。だがだからと言って緑谷くんの事に関してまで言及されるいわれはない。そんなことを思っていることが分かったのか、一言違ぇと唸った彼はまた私の正面に立ちふさがる様にして立ち、ぽんと机の上に、もっと言えば書いていた日誌の上にハンカチを置いた。
「デクが可哀想にでもなったからか?それともヒーロー気取りかよ」
 しかし今度こそその言葉に驚いてしまい、ポカンと間抜けな顔を上げてしまった。思っていた数倍静かな顔をしていた爆豪くんが少しだけ私の様子に怪訝な表情を作っていて、ちらっと見えてしまった“それ”に慌てて目を反らした。幸か不幸か落ち着いて整理しなければよく分からない光景だったのでそれを一旦置かせてもらい、言われた言葉を吟味する。決して、蔑むような言い方ではなかったことから本当に真意を知りたいのだとやっと察する。爆豪くん自身も本気でそうは思っていないようで「はよいえ」と急かされた。
「単純に……私の気分の問題」
「……」
「知ってたのに無視したら、嫌なもの背負わされる、というか…」
「……」
 それ以上言うことはないと口を噤む。いやでもまさか、ヒーロー気取りなんて言われるとは驚いた。全く持ってそんなつもりもなかったしヒーローが特別好きという訳でも無い、加えて自分の性格がどこまでもヒーローに向かないものだとも分かっていたのでまさかそんな風に言われるとは思っていなかったのだ。疲れたような、呆れたようなため息を一つ付いてガタガタと私の前の席を引いてそこに腰掛けた爆豪くんにギョッとしながら視線を逃がす。いい加減ここまであからさまに目を反らしていることに気が付いたのか舌打ちと一緒に「目ぇぐらい見ろコミュ障かよ」と暴言を言われた。喉を震わせるような音まで聞こえて、え、笑ってる?え、笑えるの爆豪くん。なんて失礼な事を考えながらそうできない理由を端的に伝える。本当ならば避けたかったはずの個性の話を、どうしてか話させる気にさせられていたのは爆豪くんが基本的に穏やかにこちらの話に耳を傾けていたからだろう。
 どうしてかその後きっちり条件まで吐かされていた私に満足したのか、すっかり夕日に濡れる教室を去る間際、心底可笑しそうな声で「なんか言うことないんか」と催促されたので「あ、うんおめでとう」なんて気の抜けた祝いの言葉をぽろっと零してしまった。用は済んだとばかりにさっさと帰ってしまった爆豪くんに、あと六時間ほどで終わる彼の始まりの日を今度は心から祝福したらどうなるだろうと、そんな風に思った。


2017.10.28


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投稿日:2017/1028
  更新日:2017/1028