デカン



若いって凄い。梓ちゃんも交えてのお茶会はもはや尋問に近かった。でもこうして気になる人の事を話すことは久しぶりの事で気恥しさもあったけれど嬉しさもあってどうにも三人の事を止められなかった。助けてもらったときの事や、立てない私を軽々と持ち上げてくれたことなどを話せば三人は火が付いたように悲鳴を上げた。きゃーって、私もそんな悲鳴を上げられるようになりたいななんて薄らと思いながら、本当に嬉しそうに梓ちゃんが笑顔でつんつんと腕を突っついてくるので首を傾げれば、これでもかと言うくらいに甘く笑った彼女はよかった、と零した。


「だっていぶきさんずっと恋らしい恋してなかったっていうか…今までの彼氏の人も流れでってばっかりでいぶきさんは別に好きじゃなかったんだろうなって思ってたんです」


「あ、それ私も思ってました。もっといい人いるのにって」


「そうそれ!だから安心したというか、いぶきさんのそんな顔初めて見れたから嬉しくて」


「二人とも可愛いこと言ってもパンケーキくらいしか出ないよ」


「待っていぶきさん私は!?」


「冗談だって、園子ちゃんもいっつもありがと。でも時間も時間だから四人で1皿とかにしない?ボリュームあるし」


「いぶきさん大好きです〜」


「梓ちゃんも調子いいんだからもう」


お互い気恥しくなって茶化すようにすればほわんと場が和んだ。改まってそんな風に言われるのに耐えられないのを知っていてこういうことを言うんだから梓ちゃんも人が悪い。早速とばかりにメニューを開いている高校生二人が可愛いなあと見ていると、梓ちゃんが二人に質問を投げかけた。


「そのすばるさん?って人は二人から見てどんな人?」


「めっちゃイケメン!しかも東都大の大学院生」


「わ、すごい頭いい人なんだね」


「今新一の家に居候というか、家が火事になったとかで住んでるんです」


そうだったんだ。と知らなかった沖矢さんの情報をしっかりと頭にインプットする。どうやら注文が決まったらしく後ろに振り向いて店員さんを呼んだ園子ちゃんの隣で蘭ちゃんが少しワクワクしたような顔をしてメニューで口元を隠しながら笑っているのを見てどうしたの?と問いかけた。


「コナン君からの伝言で…今度新一の家にコナン君と来てくださいって昴さんが!」


「え!?そ、それってお家に御呼ばれしたってこと!?いぶきさん脈ありですよ!」


「ひぇ、あず、あずさちゃ、」


嘘!と驚く前に梓ちゃんが私以上に驚き、私の肩を持ってがったんがったんと揺さぶってきたのでそれどころじゃなかった。梓ちゃん待って、酔う。蘭ちゃんの言葉を聞いた園子ちゃんもうひゃー!と変な声を上げていたし蘭ちゃんも梓ちゃんに同意するようにですよね!と力強く肯定している。興奮が冷めないのかがばりと抱き付いて来た梓ちゃんを宥めるように背中をぽんぽんと叩けばうぇえ…と妙な声を発していた。大丈夫か梓ちゃん。そしてその梓ちゃんの向こうに店員さんが佇んでいるのが見えて、慌てて「ほら注文」と促す。待たせてしまった事にすみません、と謝罪をすれば満面の笑みで「いえ」と返された。ううん、接客業者の鏡のような笑顔である。


「お三方のお知合いですか?」


「あれ、安室さんっていぶきさんと初めてだったっけ?」


「ええ」


園子ちゃんの問いに頷いて自己紹介をしてくれる彼はすらっとしたモデル体型でさぞおもてになるのだろう顔立ちをしていた。もしかして梓ちゃんといい感じだったりしないのかななんて下衆な勘繰りをしつつ、仲介の様に私の事を紹介してくれる蘭ちゃんに合せて首だけでお辞儀をする。梓ちゃんがまだ離れていないからそれしか出来なかった。どうやら最近になってポアロにバイトとして入ったらしい彼は毛利さんのお弟子さんなんだとか。なんと、ついに毛利さんに弟子が。ということはこの人も探偵になりたいとかそう言うことなんだろうか。へえ、と思わずジッと不躾に見つめてしまえば、不思議な顔をされたので慌てて目を反らした。


「そうだ安室さん、男の人って手土産とかになにもらったら嬉しいです?」


「ちょ、ちょっと蘭ちゃん」


「っは、確かに手土産は大事ですよ!安室さん是非ご意見を!」


「梓ちゃん落ち着いて」


ばがりと私から離れた梓ちゃんがそのままの勢いに振り返って、机をたん!と叩く。座ったままであったがまるで詰め寄るかのような迫力に、店員さんもたじたじである。梓ちゃんやめてあげて。


「でも昴さんにって考えるとなに買っていいか分からないかも…」


「……沖矢昴さん、ですか?」


「え?安室さんも知ってるんですか?」


「ええ、以前少し」


私だけ知らない。と梓ちゃんがしょんぼりしてしまったので苦笑しつつ、世間って狭いなあと内心で考える。蘭ちゃんはコナン君のこともあったから面識があるだろうとは思っていたけれど当たり前の様に園子ちゃんも会ったことがあるみたいだし、店員さんも縁があったらしいとなればそう思わずにはいられない。でも確かに、蘭ちゃんの言う通りで何を買っていけばいいか見当が付かない。お菓子だったり紅茶だったりの消えものにしても、彼が一人暮らしであるのならば口にあわない場合迷惑にしかならない。かといって下手に残るものを買っていってもしかりであるし、そもそも。


「すごく今更なんだけど、沖矢さんってあんなに素敵なんだからきっと彼女いると思うんだよね」


「え!?」


「だからあんまりこう、下心満載なものは避けたいなって」


「下心って!いぶきさんなに買うつもりだったの!」


あっはっは!と豪快に笑う園子ちゃんにつられて笑えば、少し狼狽えた梓ちゃんも肩から力を抜いてくれた。それに内心でホッとしつつ、そうなると本当に何を買うべきなのかを今一度考える。もういっそコナン君と一緒に選びに行こうか。彼なら知っている気がする。ついでにコナン君の欲しいものも買ってあげればいいだろうか。


「そう言うことでしたら、消耗品で洗剤とかが無難かと思いますよ」


「成程…ありがとうございます、そうします」


「え〜!色気ない!」


不満そうな園子ちゃんにすみませんね〜と笑いながら返せばテーブルの空気がゆるりと溶けた。しかし最後まで固い表情をしていた店員さんには悪いことをしてしまったなとその背中を見送りながら思った。



 - return - 

投稿日:2017/1005
  更新日:2017/1005