ビン詰めの心臓

先程入った建物の方ではなく、私が咄嗟に此処に入った原因でもある大きな十字架、つまりは教会の方に足を踏み入れた。
初めて教会と言うものに入った為にキョロキョロとしてしまう。
木で出来た此処には程よく陽の光が入り、それこそ普段世話になっていた寺と似た雰囲気だった。


「そんなに珍しいか?」


「あ、いえ、初めて教会にきたので…」


後ろから覗き込むように藤本さんに問いかけられ、そんなに不躾に見てしまっていたのかと若干の恥が残る。
その気持ちに反して未だに目を巡らせてしまい、教壇らしき十字架のあるそこで止まった。

…なんだ、なんか…
正確にはその下だろうか。
違和感と言うにはハッキリと、だが確信を持つには曖昧ななにかを感じた。
背を押されている為にどんどんと近づく教壇に、十字架の下になにか、なんてお墓の様だとぼんやり考える。


「鏡こっちなー」


いったいなんだと目を凝らしている私に気づかずに教壇を通り過ぎ、横にある扉から廊下に出る。
廊下にも沢山の光が入り、この家は陽当たりバッチリだななんて思いながらそのうちの窓のひとつから外を見る。
ギョッとした。


「(え、あのちっちゃい奴、敷地内に入ってきてる…)」


ふわふわと窓のすぐ側で漂うそれに、最悪だと血がさあっと引くのが感覚で分かる。
まずい、どうしてこうなった。
後ろの2人がなにやら話しているが、耳に入るだけで頭には入らない。
それくらいには動揺している。
さっきは最早群れというレベルで群がっていたのに対し、今見たのは2.3匹だ。
この街にきて初めて見る妖は多いが、今まで見なかったのが疑問に思えてくる。
単体でも行動するなら尚更だ。
なんだ、こいつ等。


「ほい」


立ち止まり、目の前には姿見。
何時の間に、と思うもニコニコと藤本さんが鏡越しに笑いかけてくるので、はは、と乾いた笑みを返してしまう。
そこで、本来の目的を思い出し、未だに手に握られていた袋を思い出す。
小さなそれは、改めて見ても貰うのを渋るものでしかなく、中身は知らないが見たとしても結果は変わらないだろうと自信がある。
ちらっと目線を鏡越しに藤本さんに合わせるといいからいいからとニコニコしている。

なんだか流されていると思いながらもあまり働かない頭で、とりあえず袋の口を緩める。


「…きれい」


中から取り出したそれは、ネックレスで、とてもシンプルなシルバーのチェーンに、透き通る透明の星型の石がシルバーの円盤に埋まっていた。
円盤には複雑な模様が描かれており、一目で高価な物であるとわかる。
予想的中だ。


「あの、やっぱりこんな高価な物貰えないです…」


だいたい、初対面の人に此処までお世話になり、挙句によくないものまで家に連れてきてしまったかもしれないのだ。
そんな人からトドメのようにこんな物もらえるわけがなかった。


「…燐は行ったな」


「はい」


そういった私に苦笑いをしたあと、きちんと振り返り奥村君に話しかけた藤本さん。
もう一度鏡に向き直った時の真剣な赤い目に、1番最初のビン越しのそれを連想した。
今度は鏡越しに。


「基本的にみことちゃんぐらいの歳になってからの魔障者ってのは儀式だったり、ともかくは事故では珍しいんだよな。もっとちっちゃい子供には時間かけてゆっくり知ってくべきだと思うから俺は特には何も言わねぇ。無理に聴くのもガラじゃねぇし。」


一体、何なんだろうか。
今日と言う日は。


「でもな、今回はちとそういかないみてーなんだわ。
元々の体質なのかはわからんが…俺も初めてこんなの見たしな…しかも嬢ちゃん可愛いし。放置っつーのは無しだ」


殆ど理解出来ない私に、藤本さんはさっきもいっていた台詞をもう一度いった。


「腹割って話さないか?」


今度は確信した、逃げられないと。
一体、なんだって言うんだ。




2014.06.13

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投稿日:2017/1030
  更新日:2017/1030