サバド

あれ、ここって電気ついてなかっただろうかと気が付いたのは勉強をし始めてから悠に30分は経過していたと思う。ここ正十字学園は勉学に非常に力が入れられており、小テストが各教科ごとに多く存在している。あまり賢いとは言えない私はそれこそ毎度毎度短い範囲を勉強して挑んでいるのだが、周りに人がいると話に発展してしまったりあまり勉強が身にならないのでこうして人気のない場所を探してはそこで勉強をしている。こうして見つけた場所は入学して半年近くたった今ではなんと10以上を超えていて気分によってはその場所を変えているのだが、久しぶりに来た旧第二聖堂の室内が妙に薄暗いことに気が付いた。電気も付いているし、まだ夕暮れ時だ。窓から見える空は赤々と燃えていて、あれなんで夕暮れ?と放課後から30分しかたっていないことを思い出してまた首を傾げる。んん?まだ5時にもなってないよね?
バチン、と私の真上で役割を果たしていたはずの蛍光灯が消えた。あ、もしかして寿命で消えかかっていたから暗かったのかも、と思いつきその消えてしまった蛍光灯の隣の光が届く範囲に移動する。ひゅう、と隙間風が項を撫でて一瞬ぶるりと体が震え、耐えられなくてくしゃみが出てしまった。なんて可愛くないくしゃみだ、もっと隣の席の花園さんみたいなかわいいくしゃみが出来る様になりたい。
そんなことをつらつらと考えながらもまだ30分しか勉強していなかったことを思い出して教科書とノートを開く。明日は数学と現文の漢字問題と英語の単語、それに科学の化学式の暗記の小テストがある。さっきまでは漢字をやっていて丁度範囲も終わっていたので英語でもやるか、とさっそく開いた漢字のワークを閉じて英語の単語帳を開く。
上手いこと語呂合わせでもあればいいのにと自殺という意味のsuicideという単語を見つめる。一つ目から随分と物騒だと思って次の単語を見れば次の単語はsacrifice。名詞で生贄、犠牲という意味があるらしい。二つ目も物騒だった。
一通り単語に目を通していったがその後もネガティブな意味のものばかりで、少しだけ気分が下に向いてしまった。惨め、刑罰、瀕死、危険、出血、骨折。途中からもしかして医療関係の単語を集めているのかと思ったがそうではないらしい。
シャーペンをノックしてsuicideのスペルを間違えない様に注意しつつ書き取っていく。三つ書いたあたりで水死で自殺、という語呂を思い付き完全に覚えられたと嬉しくなった。次なんだっけ、あ、生贄だ。でもそもそも英語以前に私贄って書けないかも。


「櫛谷さん!?!?」


「ぎゃあ!」


ばん!と大きな音を立てて聖堂の古い戸を開けて侵入してきたのは同じクラスの奥村君だった。古かった扉は衝撃に耐えられなかったのかギィイイイイ、と嫌な音を立てて最終的に上の蝶番が外れてガゴン、と大きな音を立てて停止した。驚きでシャーペンの芯は折れてしまったし猫がつぶされたような声を出してしまった。
ものすごく頭がいいらしいという噂は知っていたがそれ以上のことは知らないクラスの人、だった奥村君。私は自分から人の輪を広げる様な質でもないのでクラスメイトだとしても席が遠ければ話もしないで一年が終わることもざらにある。奥村君は人当たりが良く、加えて頭もいいからか常にクラスでは人が傍にいる様な人だったが彼も態々自分から用もなく人と関わるような人ではないのか、入学して暫くは本当に挨拶すらしたことがなかったと思う。
その彼とどういう訳か知り合いになって私の名前も憶えてくれたのはいつだったか。もうあまり覚えていないが彼はこうして私が静かに勉強しているところによく乱入してくる。それも今の様に毎回驚かせてくる。
しかも。


「またあなたは…!何度言えばいいんですかこんな場所に一人で来るなんて…!」


「いやこんな場所ってここ聖堂」


「ものの見事に危険な場所ばかり選りすぐって…あああもう湧いてきてる!」


さっさと立つ!と怒鳴られてしまった。
そう、どうしてかいつも怒ってくる、どうしてかは分からないけれど物凄い形相で鬼の様に怒ってくる。怖い。ついこの間も一番気に入っていた場所に放課後向かったのだが、その時は戸を蹴破って入ってきたと思ったらいきなり腕を掴まれて廊下に投げられた。比喩でもなんでもなく本当に投げられた。びっくりしすぎて暫く動けなかった。


「櫛谷またお前か!!!!」


今回はそんなことはなかったがたらたらしているとそうなりそうなほど奥村君の顔が恐ろしかったのでそそくさと廊下に出る。いったい私がなにをしたっていうんだどうしてあんなに怒るんだなんであんなに怖いんだ奥村君と考えていた先に、頭をバシリと結構な強さで叩かれ、痛いと騒ぐ前にまた怒鳴られてしまった。話し方に特徴があるし、なにより席が隣なのでハッキリと友人と言える人物の声にじろりと睨み上げながら顔を上げる。見上げればヤーさんか、と思ってしまうほどの形相を浮かべた勝呂がいて、私の頭を叩いたのであろう右手が綺麗に振り下ろされていた。背の高い勝呂を睨み上げながらまた訳も分からずに怒鳴られたことに内心首を傾げる。奥村君に何度かこうして怒られているうちに、クラスで勝呂にそれを愚痴ったのだ。勝呂と奥村君が友人なのはなんとなく知っていたので勝呂なら訳が分かるのではないかと期待して。その期待は裏切られることはなかったのだが、予想外だったのは私の話を聞くうちに勝呂の顔色が変わっていき最終的にはクラスから連れ出されて人のあまり通らない廊下に連れていかれ、その場でこっぴどい説教をされた。廊下で正座をさせられて仁王立ちの勝呂を見上げた時はこれが地獄の閻魔大王かとおもった。そのくらいおっかなかった。後から判明したのだが勝呂はお寺の跡継ぎらしく、あれは本物の説教だったのだと薄らと思った。
けれどそのお説教以来勝呂の鬼モードにはある程度耐性がついたらしく、こうして怒鳴られても睨めるくらいには私も強くなった。というか勝呂は普段から顔が怖い。笑ったら普通だけどその他の顔が怖い。


「またって何!またって!私勉強してただけだし!」


「場所を選べいうとんねん!」


「選んでるよ!めっちゃ選んでるよ!厳選した結果だよ!!」


「なお悪いわ!!」






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投稿日:2017/1203
  更新日:2017/1203