サバド
櫛谷なごみという生徒は驚くほどに鈍感だ、そう僕は判断している。全く霊感のない一般人でも肌寒く感じるであろう低級霊の溜まり場であったり、下手をすれば取りつかれてしまうような悪霊が住み着いてしまっている場所でもあっけらかんとできてしまうくらいには鈍感で疎く、霊的感覚が人並みを大きく下回っている。初めてそれを見つけたのは夏休みに入る前の頃だったと思う。期末テストの作成(塾の方)をやろうとなると教室では勿論、兄さんのいる寮でそれをするのも渋られてどこかないかと場所を考えていたのだ。祓魔師として一つ部屋は貰っているが少し前に鼻風邪を引いたのか、あそこにある大量の薬草にもろにダメージを喰らわされる事態に陥ってしまい、広い校舎を散策がてら捜し歩いていたのだ。そして人気のない空き教室や古い今は使われていない専門科目の教室に、よくないものが溜まっているのを発見した。恐らく祓ったとしてもまた戻ってきてしまうであろうという種類のもので、部屋自体に問題があるようなものばかりで今度時間がある時に部屋ごと清めるか、と決意する。フェレス卿もそういうところは杜撰だ。時間はかかるが難しいものでもない、準備が必要であるからその時の手持ちでは不可能だったのでそういった部屋を覚えながら足を進めていた時だった。
あれはまずい、これは緊急を有する。それくらいに悪い気が充満しきっている部屋を見つけてしまった。多目的室と書かれたプレートもドロドロと溶けかけていて、中からは赤ん坊の泣き声が聞こえてきている。今の手持ちを考えて、不足だと判断する。低級悪魔が大量にいるのであろうし、詠唱でもいいかとも思ったが音を発せられる当たり少し厄介かもしれない。テストの作成はこれの後だな、と近くの扉に寮への鍵を差し込もうとしたとき、後ろで扉があく音が聞こえてぎょっとしてしまう。まさか物体にここまで干渉できるほどに力が強まっていたのか、とバッと身構えつつ振り返った先で、櫛谷さんがいた。きょとんとした様子で、あれ、と首を傾げてすらいる。その彼女の背後の部屋が地獄絵図になっていて、なんだこの状況はと理解しきれない頭で必死に考える。
「あれ、えっと…おくむらくん」
「はい、櫛谷さん、ですよね」
「ああ、うん。あ、もしかして勉強?私も今までしてたんだけど肩凝っちゃってちょっと息抜きしようと思って」
「(…肩に泣き喚いている赤ん坊を乗せていたらそうなるだろ)」
「あと換気したかったんだけど窓固くてさ、ここはあんまお勧めしないよ」
「(固いっていうか一面悪魔が張り付いてて窓がどこにあるのかわからないしお勧めしないはこっちのセリフだ、というよりこの人今までこの部屋で一人で勉強してたってことか…?)」
「字ばっかり見てると頭痛くなってきちゃうし、私馬鹿だからさー」
「………失礼します」
「ん?んぎゃ!!!!!」
持っていた清めた塩を彼女に投げつける様にぶっかけてしまった僕は悪くないと思う。こんな最悪なファーストコンタクトなのにも関わらず彼女はこの出来事をすっかり忘れてしまったらしく、しかも厄介な事に霊感の皆無である鈍感な櫛谷さんに疲労困憊させられていくとは、この時は流石に予想もしなかった。
投稿日:2017/1203
更新日:2017/1203