グレモリー


勝呂君の話を聞くに、僅か数分間の間で公爵夫人の宝冠が彼女の腰に巻き付いていたという事になる。恐らくはグレモリーがそうしたのであろうが、そもそもグレモリーはそんなことをする悪魔ではないと先にも述べた通りで、所謂公爵夫人の宝冠はグレモリーのもつアイテム、のようなそんな存在だ。だからこそそれを人間に与えて悪魔自体はいなくなっているなど、どう考えても可笑しい。これがもし着用者に災厄をもたらすものであるのならばすぐにも引っぺがすのだが、今回はいろいろとイレギュラーだ。急を要するわけでもないと分かっただけでもよかったが、さてどうしようか。これを櫛谷さんが付けていることによって起こる被害はまあ、ゼロに近いだろう。実際もう影響は出ているようで、勝呂君がそれを目撃しているらしいが悪意の類は寄ってこないだろう。


「考えられる可能性としては、そうですね…グレモリーが櫛谷さんに与えた…いやないな」


「奥村君疲れてはりますな…」


「否定できないです」


「え、なに奥村君疲労?寝れば?」


「お前はいいから大人しく寝とけ言っとるやろ」


少しでも宝冠の効果が下がるであろうと櫛谷さんが不服そうに横になっているベッドには唐辛子が布団の中に仕込んである。応急処置としてああしてもらっているが本当に意味も訳も分かっていないのによく櫛谷さんは僕らの言うとおりにしてくれるよな、と少しホッとすると同時、どこまで危機感がないんだと呆れもする。「ほーい」と言いながらごろりと寝返りをうったせいで制服のスカートが肌蹴たので咄嗟に手に持っていたレモンのビンで背中を殴ってしまったが不可抗力だ。


「おっま足…!!って先生!?」


「ぐっほ…!」


「あんたは多少は恥じらいを持て…!!!」


「ごえんなはい」


枕に顔を埋めて唸りながらも反射の様に謝ってきた彼女に舌打ちを零しながら布団をかぶせて足を覆い隠す。女子高生としてどうなんだ、何考えているんだこの人は。何も考えていないのかそうなのか。男子高校生二人と教員も不在の保健室だぞここは、どんなAVだ。そこまで考えが至ってまたイラッとしたので布団の上にも余っていた唐辛子を叩きつけるが如くばら撒いておいた。


「とりあえず、上に確認します」


「…上って理事長ですか?」


小声でそう耳打ちしてくる勝呂君に頷きを返しながら、先ほど電話をかけたために履歴の一番上にあるそれに通話を繋げる。流石にここで電話すれば櫛谷さんの耳にも入ってしまうので彼女を勝呂君に頼んで一人、祓魔師用の隣の部屋へと移る。ここはそれなりに防音であるし、問題ないだろう。
スリーコールであの陽気な声が耳に届いたのでホッとしつつ、要件を告げる。


「…ということなんですが」


『そうですか…面白いですねぇまるでグレモリーの授けものだ』


「……」


『いやしかし、彼らにそんな習性はない、よってそこに“預けた”と考えるのが妥当でしょうな』


「は?」


預けた、その単語に嫌な予感がひしひしと感じられて耳を塞いでしまいたくなった。頬が引きつるのを感じながらなんとか笑顔を浮かべてどういうことかと聞き返せばその言葉の通りだと電話口の悪魔は笑った。


『たまたま、そこにいい腰があったものだから巻いて置いたというだけでしょう』


「い、いやいやいや」


『あなたもご存じでしょう、グレモリーの宝冠を奪う方法に彼らが宝冠をどこかに置いた隙に別の原色の布とすり替えておくという』


「それは、まぁ…」


『グレモリーを祓ってしまえば宝冠も消えてしまいますからね、そういう原始的な方法が効果的だ。本来ならそんなレアアイテムが手に入るのであれば同じようにその生徒の腰に代わりに布でも巻いて置いてほしいですが、流石にそれでは学校で悪目立ちしてしまいますでしょうし四六時中彼女がそれを付けてくれているという保証もない』


「はぁ…」


『グレモリーが宝冠を取られたと気が付いたら凶暴化するのもありますし、そうなると真っ先に被害にあうのはその生徒。今回は宝冠は諦めましょう』


つまりは、一般生徒には目に映らない宝冠のまま、そのまま櫛谷さんの腰に巻いて置けという事か。あれを彼女の腰に巻いていったグレモリーがとりにくるまで。『では頼みましたよ』と少し残念そうに言って電話を切ってしまったフェレス卿に茫然としつつ、自分も携帯を耳から離す。ということは、そういうことか。


「(暫くあのままの櫛谷さんが教室にいるってことか…!!!!!!)」


ふざけるなと叫び出しそうになったがなんとか耐えた。そしてこのことを勝呂君に伝えた時、彼が代わりに叫んでくれるだろうことは予想できた。




2015.10.5




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投稿日:2017/1203
  更新日:2017/1203