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小テスト中、不審なことをしでかす者がいないか確認しながら教室内を歩く。
ある女生徒に近づくと見るからに身体を強ばらせたのがわかった。教室に入った瞬間背筋を伸びたのが確認できて密かに笑んだ。しかしテストを開始してしまえば伸びた背筋も戻りせっかくの綺麗な背のラインが台無しとなった。
ここが昼間の教室だと忘れて笑いそうになる。私を畏怖している。ずっとそばで佇んでやりたくもなる。だがそんなことができるはずもない。
「終了時刻です。後ろから集めて教卓に置いて下さい。すみませんが川奈さん、準備室まで持ってきてもらえますか?」
チャイムが鳴り、終了を告げると教室内はざわつく。まさか名指しされるとは思ってなかったのだろう。困惑したような表情をこちらに向けてくる。
「何か問題がありますか?」
「い、いえ……」
笑顔を向けてやってるというのに顔を背ける。
「ではお願いします。先に行っています」
教室を出て腕時計を確認し準備室へと向かった。
「どうぞ」
ノック音と名が聞こえ返すとドアが開く。腕時計を確認し立ち上がる。それだけで川奈は身体をびくつかせた。
「閉めて下さい」
ドアが閉められ机に答案用紙を置こうと奥へと歩む。横切りドアの施錠をした。
「先生?」
「何ですか?」
鍵を閉めたのがわかり振り返り見上げてくる。
「私、また違反をしましたか……?」
先日の指導を思い出しているのだろう。恐る恐る問われすぐには返答せずに横切り椅子に腰かけた。
「何か心当たりでも?例えばその小テストとか」
「いえ!教えてもらった公式は、ちゃんと……」
「知っている。ならば何故聞く?他に心当たりがあるのか」
口調が変わり怯えるように用紙を抱き締め俯く。
「また志奴の車にでも乗ったのか。ああ、お前は他の教師の特別指導も受けたそうだな。本当よくも今まで優秀な生徒を装ってこれたものだ」
「何でそんなことを……」
「知っているに決まっているだろう。特別指導室を使用すればわかる。該当生徒が誰かもな」
机に用紙を置いて背を向ける。震えて鍵を開けるのを手間取りその間に近づく。
「教師に色目を使い誘惑するなんて不良生徒だな」
「そんなことしていません!」
いつまでも開けない鍵の金属音が不愉快で手を取り上げた。
「学園にはどれだけの生徒がいると思う。数学ができなくてもわかるだろう。多数の生徒がいるにも関わらず特別指導の教師に目をつけられるなんて他に理由がないだろう?」
震える手を上げさせ細い指を擦る。やはり綺麗な指をしている。見た目だけでは私が特別指導した時と何ら変わりはない。
「震えるな。今日は叱責するわけじゃない。躾にかわりはないがな」
「ご、ごめんなさ……許して下さい」
「何に対して謝罪し許しを請う?言っただろう。中身のない謝罪はするなと」
手だけではなく身体全体も震えだし焦点も合わなくなっていく。
「悪い事をすればそれ相応の罰を受ける。だが」
もう片方の手を腰に回し後ろから抱き締める。先日の指導室で初めて触れれば直に骨格を確かめられるとわかり触れることへの躊躇いは川奈相手にはなかった。
「ちゃんと良い生徒でいればそれ相応の褒美が与えられる」
「……いりません」
「何?」
餌で釣ればと思い口にしたがこれで食いつくようなら部屋から追い出していただろう。
少なからずとも私はこの生徒を評価していた。優秀な生徒だと思いわざわざ時間を割いて教えてやったというのに失態ばかり目につく始末。
反省させても反省するべき事を自信でわかっていない。
期待などしていなかったはずなのにあれは失望だったのだろうか。だがあの日に指や鎖骨だけでなく全体的に均整のとれた身体だとわかったのは収穫だった。
「理由を言え」
顔を正面に向け黙り込む川奈の耳に口を寄せる。
「また特別指導室に行きたいのか?」
「い、いやです」
「ならば早く言え。時間をどれだけ無駄にすればきがすむ」
「……凪原先生の言う褒美が私にとって褒美か、わからないからです」
「ほう?」
よくあの短時間でそこまで頭が回ったものだと感心する。
目先のものに飛び付かずに先を見据えて返したのは評価してやる。
「お前らのような女生徒が喜ぶことなどたかが知れている」
「……嫌です」
頑なに拒む態度に苛立つ。このままドアを開き突き放してしまえばいいのに抱く身体を手放し難く思っている自分に嘲笑する。
「いいだろう。ではお前の言うことを一つ聞いてやる。ただし、今までの私との会話を踏まえてだ。わかるな」
微かに身体から力が抜け震えが止まる。
沈黙は長くはなくすぐに口を開いた。
「ま、前から……優しく抱き締めて下さい」
予想外の言葉に反応が遅れる。離してではなくむしろ自分から逃げ場がなくなるような言葉に両手を離す。
こちらを振り向き俯いたまま佇む。
「いいだろう。私の服を決して汚すな」
「はい」
口を固く閉じたのを合図に胸に抱く。両手を身体に回し目を閉じると骨格がよりわかりやすい。
「息はしていい」
息を止めていたのがわかり言うと胸元が温かくなった。
「私のところへ通い、良い生徒でいろ。背筋を伸ばし、誰にも触れさせるな、隙を作るな。私に触れられるためならできるな?」
胸に埋もれた頭が頷いたのがわかった。
H26.2.10
確認
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