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「凪原先生、質問してもいいですか?」
授業が終わり戻る仕度をしていると川奈ヒナがノートを手に近づいてきた。
彼女とはあれ以来よく話すようになった。距離を置かれても仕方ないとは思っていたがこうして変わらずに接してくれる彼女に安心した。
こうして質問にきたり、楽しそうに勉学に励む姿を見ていると教師になって良かったと初めて思えた。
「ああ、そこは……」
解き方のヒントを告げると彼女は理解したのかペンを走らせた。
「ということはここは……」
呟きながら次の問題へ移る。中断はせずにその様子を見守る。
決して最初から文字が乱れていたわけではないが良くも悪くも年相応だった。だが最近は均整のとれた数字がノートに綴られ彼女のものだと確認しなくてもわかるようになった。
ふとノートから視線を外すと彼女の伸ばされた背に視線が引き寄せられた。
「ひゃっ」
声が上がり我に返ると手が知らぬうちに彼女の背に触れていた。彼女が戸惑ったように見上げてくる。
「あの……背中丸まってましたか?」
「いえ、しっかり伸ばされてましたよ。すみません、触れてしまって」
背から手を離し謝罪する。
昼休みに入ったからか教室には私と彼女しかいなかったが教師が女生徒に理由もなく軽々しく触れるものではない。
「良かった」
「良かった?」
「姿勢を正すよう心がけていたんですけど最近は自然にできるようになったなと思っていたんです。でもまた姿勢が悪くなってしまっていたかと不安になってしまって……」
「なぜ……?」
姿勢を正すことに理由などないだろう。本来はそうあるべきだ。
だが理由を問いかけてみたくなってしまった。
「それは……」
躊躇い俯く彼女を見つめる。すると顔をあげて笑顔を浮かべた。
「ピンとしていると気持ちがいいんです。凪原先生が教えてくださったんですよ?」
彼女は私の教えだと笑顔を浮かべる。
私と彼女は教師と生徒だ。それを互いに理解している。校則違反は許されない。距離はそのままに通わすことは違反にはならないだろうか。
「そうですか……そう言ってもらえると嬉しいです」
仕度を再開すると彼女がお礼を告げ離れていく。
「川奈さん、よければお昼を一緒に食べませんか?」
ノートを片付けていた彼女に誘いの言葉をかけると彼女は嬉しそうに笑った。
H26.6.13
自然な姿勢
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