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「川奈は確か一人っ子だよな?」

ヒナが頼まれたプリントを集め職員室を訪れるとプリントを受け取った志奴の突然の問いに驚いた。すぐに返答がなく不思議に思ったのか椅子に掛けたまま志奴はヒナを覗きこむ。

「志奴先生、川奈さんが困っていますよ」

凪原が来たことに安堵し職員室を出ようとしたがそう上手くはいかなかった。

「凪原先生、今川奈と話しているんですが」
「あの、私もう」
「私も川奈さんに用事が入りましたので待たせていただきます」

ヒナは思わず声が上がりそうになり抑える。
昨夜なぜか学園内を走り回る夢を見た。先生達から逃げ回り東條を探していた幼い自分。しかし目覚めたのは自室で幼くなってもいなかった。
夢だったのだろうと思ったのに志奴の問いに驚いてしまう。ただ一人っ子だと答えればいいだけ。ヒナはそう思い口を開いた。

「おいおい、職員室で女生徒を挟んで何険悪な空気醸し出してるんだよ。修羅場?」
「なになに修羅場?ボクも仲間に入れてー!」
「レム、よくわかってないのに混ざってくるな」
「職員室ですよ、静かにして下さい」

葛葉とレムまで近寄りヒナが抜け出せそうな隙間がなくなってしまった。でもこれならば話を逸らして終わるかもしれないと期待する。

「そういや川奈って妹とかいんの?」
「っ!?」

夢のはずと思い込みたいのに夢ではないのではないかと思わされそうでヒナは段々怖くなってくる。

「皆さん集まってどうかされたんですか?」

更に柳が加わり形振り構わず逃げ出したくなってしまう。

「……い、いません」

何とか絞り出せた言葉にこれで解放されるとヒナは思ったが肩を葛葉、腕を加修に掴まれ困惑する。

「何がいないのですか?」
「妹ですよ」
「ああ」

来たばかりの柳にわかるように凪原が答えると柳は納得した。
もう話は終わったはずなのになぜ先生達は自分を囲んでいるのかヒナにはわからず立ちすくむ。悪いこともしていない。問いにも正直に答えた。それなのになぜ自分は緊張して恐怖すら感じているのか。

「川奈さん、何か言いたいことがあるのですか?」

背の高い柳に上から覗きこまれ体が強張る。

「おやおや、皆さん集まってどうされたのですか?」
「海里」

隙間から東條の姿が見えヒナと視線が合うと東條は微笑んだ。

「川奈さんが緊張されてますよ。男性で囲んだら可哀想です」
「いやむしろ嬉しいだろ。な?」

葛葉が肩に置いていた手で首筋を撫でる。距離をとろうとしても加修に腕を掴まれていて動けない。

「もっと話してくれたら楽しいんだけどな〜。甘いもの食べたら話してくれるかな?」
「どういう理屈ですか」
「どうしてこんな状況になったんですか?」
「川奈さんに妹さんがいないかという話みたいですよ。彼女はいないと答えたんです」
「そうですか」

状況を確認した東條は一歩進むと自然と隙間が広がりヒナのへと近寄る。そして手を差し出した。ヒナは戸惑い東條を見つめる。

「貴方が幼い頃はさぞ可愛かったのでしょうね。その時に出会い勉学をお教えできたならと思ってしまいます。ですが今の貴方も可愛らしくとてもいい生徒です」

ヒナの手は東條の手に重ねられ囲みから抜け出した。

「先生方もそんなことを考えてしまったんですよね」

東條が呆気にとられている面々に言うと皆の視線はヒナに集中した。

「そろそろ校則にある校内にいていい時間を過ぎてしまいます。また明日お会いしましょう」
「はい。失礼します」

東條に帰宅を促されたヒナは職員室をあとにした。
扉が閉まるまで誰も口を開かず見送った。ただ一人の女生徒を見つめたまま。



H26.5.26

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