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暗がりの学園を東條と少女は歩いていく。東條は少女がはぐれないよう歩く速度を普段よりも落としていた。
「不安になって僕を探しに出てしまったんですね、川奈さん」
東條が立ち止まり後ろをついてきていた少女、川奈ヒナも足を止めて東條を見上げた。
「起きたら東條先生がいらっしゃなくてびっくりして……」
「すみません、少し出てまして。まさか貴方がそんな姿になってるとは思わず」
「私、戻れるんでしょうか……」
不安そうに呟き俯くヒナを安心させるように膝をつき肩に触れた。
「もし戻れなくても僕と一緒にいましょう。貴方が川奈さんだとわかっていますから」
幼い自分を知っている親は気づいてくれるかもしれない、それでも突然幼くなるなんてありえないと信じてもらえない。おかしな子だと思われてしまうかもしれない。それでも不安は抑えられなくて口を開けば誰かに助けを求めてしまうかもしれない。極力話さないようにお茶に誘ってくれた東條ならば何か知っているのではないかと探し回った。
もし東條も自分だとわかってくれなかったらと不安はあったがわかってくれ、一人にはしないと安心させてくれた東條に堪えてきた涙が流れた。
「ありがとう、ございます……」
「泣かないで下さい。誰にも言わなかったことは偉かったですよ」
ヒナが流した涙は東條が布で拭っていく。ヒナは顔を上げて泣かないよう努めた。その姿に東條は微笑んだ。
「髪を伸ばしたことはありますか?」
「いえ」
東條の手が毛先に伸び指先で確認するように触る。
「伸ばしてみるのもいいかもしれませんね。今から川奈さんの本来の歳になるまで伸ばしたらどのくらいになるでしょう」
毛先を弄りながらも視線はヒナに向けたまま楽しそうに話す東條。ヒナは何も言えずに見つめ返すしかなかった。
「冗談ですよ」
毛先から手を離されいつしか強張っていた体から力が抜けた。
「ではとりあえず今日は学園に泊まりましょう。きっと起きたら夢から覚めますよ」
東條が立ち上がるとヒナを抱き上げた。驚いて見つめると笑顔を向けられる。駆け回って疲れてしまったからか眠気が襲い目蓋が重くなっていく。
「おやすみなさい」
ヒナは東條の声をぼんやりと聞きながら目を閉じた。
「寝たようですね」
腕の中で寝息を立てる幼い少女を見つめ東條は呟く。
「目覚める時間に誤差がありいなかった時は驚きましたが貴方が必死に僕を探して他の先生方から逃げているのを見れたのはとても……」
そのあとは口にはせずに微笑を浮かべる。髪に軽く唇を寄せ学園の建物へと歩いていった。
H26.5.25
東條
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