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ノックをしても返事がなかった。
確かこの時間は待機してると思ったのに。たまに外れにある倉庫に行くのを見かけるからそこだろうか。
書類を届けるのに私用の時間に押しかけるのは気が引けた。

「開いてないかな」

無断で入ったら怒られそうなものだけど、前に書類を渡すのが遅れて怒られたのも確かだった。
なら書類だけ置くぐらいならいいだろうと思ってしまった。

「あ……開いてる?」

試しに扉を押してみると隙間ができた。
まるで私の思いが聞こえたかのように開いていく扉。

「し、失礼します」

小声で断りをいれ、部屋に足を踏み入れた。
静かに扉を閉めて、机の上に書類を早く置いて出ていこうと前を向いた。

「っ!?」

入る事を優先して気付かなかったのだろう。私は扉を閉めてから座る人物に気がついた。
でも何回かノックをしても返事はなかった。
よく見るとその人は机に伏せているようだった。

「キサラギ少佐!?」

私は慌てて駆け寄ると俯せになる少佐を覗きこんだ。
もしかしたら体調が悪くて返事ができなかったのかもしれない。
そう思って駆け寄ったけど、少佐からは正常な寝息が漏れていた。

「よかった……」

安心したのもつかの間このままでは風をひいてしまうのではないかと思い、かけるものがないか探す。
あいにくこの部屋にはそれらしいものはなかった。

「そうだ、私の上着を」

上着を脱いで少佐の背中に掛けようとする。
ふと少佐の寝顔が目に入り、まじまじと見てしまう。
苦手な人ではある。
士官学校の時から私に対しての態度がどこか冷たく感じたというのもある。でも初めて会った時から私はこの人が苦手だった。
もしかしたら知らずに態度に出てしまっていて、不快に思わせてしまったんではないだろうか。
だから少しでも打ち解けようと軍に入ってからは話し掛けるようになった。
変化があったのかはわからない。

「いつまでそうしているつもりだ」
「え?あっ、す、すみません!」

突然の声に驚いてしまい掛けようとしていた上着から手を離してしまった。
それは少佐の頭にかかってしまう。

「本当に何がしたいんだ」

上着を取り去りながら少佐は顔を上げた。

「書類を届けに来たんですが少佐は寝ていらっしゃるようだったので」
「その書類とやらはどこにある?」
「え?あっ!」

指摘されて手元にない事に気がついて扉の方向を見ると扉付近に書類が散乱していた。

「すみません!」

来た時と同じように慌てて扉の方に戻り、散乱した書類を集めはじめた。

「キサラギ少佐、私がやりますから」

すぐに少佐も書類を拾うのを手伝ってくれた。
私が止めても少佐は拾い続ける。

「僕が寝ていたせいみたいだからな。まさか寝ていただけで書類を散乱されるとは思っていなかったが」
「すみません」

まさか少佐の体調が悪いんじゃないかと思って慌てたら落としてたなんて言えるわけがない。

「謝る事以外できないのかヴァーミリオン少尉」
「すみません」

強い口調につい条件反射で謝ってしまう。
顔が見れなくてひたすら書類を拾っていると少佐のため息が聞こえた。呆れられてしまった。
私も言えるならすみません以外を言いたいのに。

「いい。僕以外には謝るな」
「え?」

集めた書類を取り上げられるのと顔を上げたのは同時だった。
少佐は机へと歩いて行ってしまいそれ以上は聞けなかった。
このままでいいという事なんだろうか。でも聞く勇気はない。

「用事が済んだのなら出ていけ」
「はい!失礼しました!」

いつもの鋭い眼差しで見られても違う気がした。
私の勘違いかもしれない。

「少佐、いつから起きていたんだろう」

部屋を出て、まず気になったのはそれだった。
まだ気になる事はあるけどまずは話し掛け続けよう。
たとえ迷惑そうにされても今はそれしかできないから。



H21.7.20

まず気になったのはそれだった
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