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急いで身仕度を整え家を出た。
レポートを夜遅くまで書いていて起きたのもぎりぎり。
慣れ親しんだスティック型の栄養食品をかじりながらマンションの入り口に向かう。

「あれ……?」

入り口付近に佇む姿が見馴れすぎている人物で俺は慌てて栄養食品を口に突っ込んで駆け寄った。

「おはよう、トーマ」

俺の姿を確認するなり笑顔で朝の挨拶をするのは俺の恋人だった。

「約束とかしてないよね?そんなに朝早くないけど最近寒くなってきたんだからこんなところで待ってたら駄目じゃないか」
「でもドアあるし、風避けられるよ?」
「人が出入りしたら風入るんだから同じ」

こんなやりとりは付き合う前から変わらない。
彼女は少し不服そうにしながらもこれからは気をつけると言った。

「こんなところにいるなら俺の家に……」
「なに?」
「今の忘れて。それで何でここにいたの?」

言いかけてやめた。
朝から訪ねられたら色々まずい。困らないしむしろ歓迎したいけど寝起きに来られたら寝ぼけて何かしそうだ。しない自信が今はない。
追求されないようにしたもののやっぱり気になるようで首を傾けていた。

「用事があったからいたんだろ?」
「あ、うん。お弁当作ったから渡そうと思って」
「弁当!?お前が作ったの!?」

驚いてしまいそれをそのまま出してしまい彼女は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

「悪い悪い。何か意外で……急に何で?」
「だめ?」

顔を少し俯かせて伏し目がちに視線をさ迷わせる。その仕草にどきっとした。
でも平静を装って口を開く。

「駄目って何が?」
「理由がないと……。恋人だから……理由がなくてもここにきちゃだめ?」
「っ……」

何て言ったらいいかわからなかった。
付き合いはじめて1ヶ月が過ぎた。あの日を境に恋人になったとは思う。
でもどこか今まで通りな部分もある。俺は彼女に関しては肝心なところで鈍感になってしまうのかもしれない。

「ごめんね。トーマ、大学の事で忙しくでバイト辞めたのにこれじゃだめだよね」

俺が何も言わない事で誤解させてしまっている。これでは前の時と同じだ。

「駄目なんて事ない。理由なんてなくていい。でもそうすると俺の理性がもたないっていうかさ、我慢ができなくなりそうなんだ」
「我慢なんてしなくていいよ」

俺が話し出すと顔を上げて真っ直ぐに見つめてくる。
そう言ってくれる彼女だから、すれ違いで檻に入れてまで守ろうとした事も受け入れてくれた。
不安定さも全てを知っても好きだと言ってくれた。

「本当に?」

確認する必要なんてないのに確かな言葉が欲しくて問い掛けた。

「うん」

嬉しそうに笑ってくれてためらいなく抱き締める。
柔らかく背中に触れる腕も抱き締める身体も全て心地いい。

「じゃあ合い鍵作らないと」
「合い鍵?」
「俺のとお前のと。そうすればこうして待ってなくてもいいし」

先程俺の部屋にくればいいし、俺が寝てて出ないと困るから合い鍵渡すと言いかけた。それを今改めて口にする。
少し戸惑ったのがわかって離れないように少し腕に力をこめる。

「え、それってトーマも私の家の合い鍵持つって事だよね?」
「早起きってあまりしないんだけどお前起こすためなら頑張れるな」
「自分で起きるから大丈夫だよ?」
「うん。でも理由なくても行きたい」

そう言うと彼女はぎゅっと力をこめて抱き締めてくれた。同じ気持ちだと言ってくれるように。

「じゃあ、大学行こうか。昼はお前の手作り弁当だしね」
「うんっ!」

少し名残惜しくも身体を離した。でもすぐに手を繋ぐ。

俺はこの腕に閉じ込められている。それは彼女も同じで俺の腕の中にいる。
でもそれは彼女を守るためとはいえ閉じ込めたあの檻のように閉鎖的ではない。
安心できる暖かい居場所なんだ。

「トーマ」
「何?」
「栄養食品が悪いとは言わないけどちゃんと食べなきゃだめだよ」
「見えてたんだ……」

慌てて口に放りこんだから大丈夫かと思ったらそういう事は見えてしまうらしい。

「お前がいたら食べるんだけどなぁ」
「えっ……」

そこまで驚く事言ったかな?と考え、すぐに朝ごはんを一緒に食べるという発言から何やら想像してしまったであろう事に思い至った。

「いや、変な意味はなかったんだけどね」
「そうなの?」
「上目遣いでそんな無防備に聞かないの!」

前から翻弄されてはいたけどこれからは今まで以上になりそうだ。
それだけ好きだって事だからなんだけど、それも全てが彼女だから感じる事であって全てが心地いいんだ。


H23.9.29

腕の中
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