novel top ▲
まだ日差しが弱い季節。部屋は寒くないけれど大きな窓から差し込む陽は暖かくてつい日向へ行ってしまう。
微睡みの中、身体に何かがかかる。そばから大好きなにおいがして上から身体をずらして掴んだ。
「こら、掴むのは俺じゃなくて毛布にしなさい」
「もうふ……?」
寝惚け眼で頭もまだぼんやりしている。
目の前には膝。腕を掴んで膝の上に頭をのせていた。
「起きた?」
「……トーマ、おかえりなさい」
「ただいま」
上から聞こえる声に出掛けていたトーマが帰ってきたのだと嬉しくて笑みが浮かぶ。
「それで、そろそろちゃんと起きた?」
「うん。あ、重いよね」
掴んでいた手を離し身体を起こす。掛かっていた毛布が身体から落ちた。
「掛けてくれてありがとう」
「風邪ひくだろ。寝るのはいいけど毛布は掛けないと」
「でも寝る気はなかったから……洗濯物畳んでる途中だったし」
トーマの視線がまだ畳みかけの洗濯物に向けられる。
「まあここ気持ちいいからな」
トーマが私に甘いのは昔から。せめてちゃんとやり終えようと洗濯物を畳むのを再開した。
するとトーマも一緒に畳み出してしまう。
「だめ」
「だめ、って二人でやった方が早いだろ?早くやって夕飯の手伝いしてもらいたいしさ」
「……うん」
やっぱり甘いと思いつつトーマがやめる気がないこともわかっていて諦めた。
「トーマもここで眠ったことあるの?」
先程の言葉を思い出し訊いてみる。
「ここではないかな。テレビとかパソコンの前の方が多いかも」
先程ここは気持ちいいと言ったのはやはり私が気にしないようにだろうか。
「さっきここが気持ちいいって言ったのは嘘じゃないよ」
「何で考えてることわかったの?」
「何か難しい顔をしてたら検討はつくよ」
そんなに表情に出ていただろうかと考えると見透かしたようにトーマは笑った。
「気持ちいいから、眠れない」
トーマは窓に顔を向け目を細める。
「……お前を思い出すんだ」
「私?」
「俺にとって暖かくて気持ちがよくて居心地もいい場所はお前のそばだから。ずっとお前の事を考えて生きてきたからさ。お前の事思い出したらきりがなくて眠れない」
トーマの言葉に私は何も言えずに見つめた。トーマにとっての私は私自身にはわからない。でも少しだけわかった気がした。
「……ごめん、こんなこと言われても困るよな。早く畳もう」
私に顔を向けて笑って私が何も言わないでもいいように話を切った。
その瞬間私はトーマに抱きついていた。
「ちょ、なに?」
「さっきね、トーマがきて日向のこの場所よりも大好きな人が来たってわかったから掴んだの」
意識がなくてわかる。いつも私のそばにいてくれた人。私の事を好きだと言ってくれた大好きな人。
「……ありがとう」
小さく囁くように言われ抱きしめられる。
段々陽は落ちてきたけれど変わらず暖かかった。
「このまま眠れそう」
「じゃあ次のお休みは二人でひなたぼっこしながら寝よう?」
「せっかくの休日に寝るだけなのもどうよ……」
「私はトーマといられるだけでいいよ」
「俺もだよ」
身体が少し離れ近い距離で見つめあう。
「買い出しとかやる事をやってからな」
「うん」
頷くと唇が近づいて重なった。
H25.1.31
【あなたとほのぼの5題・あなたとひなたぼっこ】
お題配布元:リコリスに花束を
あなたとひなたぼっこ
prevU
next