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「なにを、しているんですか」
「トキヤおかえり!」
「一ノ瀬さんおかえりなさい」

中央のテーブルに向かいあって座っていた俺と春歌は待ち人が帰ってきて出迎えた。
トキヤは春歌がいた事に驚いたようだ。

「こんな時間に男の部屋にいるなんて関心しませんね」
「俺が招いたんだよ。トキヤに出来上がった曲を早く聞いてほしかったからさ」

たまたまレコーディングルームで作業する春歌を見かけて覗いてみたらちょうどトキヤの曲が出来上がった時だった。
同じクラスだったら俺も春歌の曲が歌えたのかななんて思う。

「一十木くんは悪くないんです。私も早く聞いてもらいたくて……すみません」

春歌は立ち上がって頭を下げた。その様子にトキヤは息を吐くと春歌に近づいて頭を撫でた。

「構いません。私も早く聞きたいですから」
「っ……はい」

トキヤの笑顔にちょっとびっくりした。授業の写真の課題で撮った笑顔は見た事があったけど自然な笑顔。
春歌も顔を上げて安心したように顔を綻ばす。

「ではパソコンの用意をしますね」

音源の用意のため改め持ってきたデータをすでに使っていいと言っておいた俺のパソコンに繋ぐ。
やがて出来たばかりの曲が部屋に流れ出した。


「そういえばトキヤ夕飯食べた?」
「何ですか突然」

曲を聞いたトキヤは春歌に意見を出したりしてそれを俺は見ていた。トキヤの言い方はたまにキツイ時もあるけどそれだけ真剣で本当にいいものを作りたいからなんだ。春歌もそれを受け止めていて二人はいいパートナーだと思った。
やがて終わるとせっかくだからお茶ぐらいしようと俺が提案しトキヤも渋々了承した。
春歌がお茶の用意をしてくれてる間ふと疑問に思った事を聞いてみた。

「その反応だともしかして食べてない?」
「何故そう思うんですか」
「食べてたらはっきり言うと思うから」

何かあったかと鞄を探ると今朝春歌にHAYATOの朝食用に頼んでいたパンが一つだけ残っていた。

「トキヤはHAYATOと話しできた?」
「……今更話す事なんてありませんよ」

トキヤはHAYATOの話をすると少し様子がおかしくなる。もしかして仲が悪いのかと思ったけどそうでもないらしい。HAYATOはトキヤの話しても普通だったし。

「そっか。あ、パンあるけど食べる?」

早乙女学園名物さおとメロンパンをテーブルに出してみる。

「……またパンですか」
「え?」
「いえ、何でもありません。時間も時間ですし結構です」
「トキヤ、パン嫌いだっけ?」
「そういうわけでは……」

俺なんて夕飯食べて更に夜食も食べるのに夕飯を食べなくても平気なトキヤが信じられない。
でも無理矢理渡すのもよくないよな。

「お茶容れました。一ノ瀬さんはお砂糖なしで大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」

春歌が三人の前に熱い紅茶の入ったカップを置いていく。シュガースティックは俺と春歌の前にだけ置かれた。
紅茶のほんのりいい香りが今までは感じなかった食欲を刺激する。

「あ、メロンパンですね。今朝のですか?」
「うん。そうだ、春歌食べる?」
「えっ!?いただきたいですが夜遅いですし……」

ちらりと部屋に置かれている時計を見る春歌。やっぱり気にするもんなのかな。

「じゃあ分けようよ。それならそんな多くないし」
「そうですね。それなら……」

袋を破いてメロンパンをちぎってわける。

「何ですか、この手は」
「さおとメロンパン」
「手にあるものが何かはわかっています」

俺はメロンパンを3つに分けて一つをトキヤに差し出した。

「今日じゃなくても明日とかも食べれるよ」
「そういう問題では……仕方ないですね。いただくとします」

トキヤはお茶の時と同じように渋々とメロンパンを受け取った。
でもそれが嫌がってるわけではないのがわかる。

「いつもと違う美味しさがするよね」
「はい」

メロンパンを頬張りながら言うと春歌も頷いてくれた。
そんな俺達とメロンパンを見比べながらトキヤは笑みを浮かべながら自分の分のメロンパンを袋に入れた。
きっと明日食べながら今晩の事を思い出すのだろう。そうして食べたメロンパンも美味しいに決まってる。


H23.2.10

きっと明日食べながら今晩の事を思い出すのだろう
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