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机に置かれた携帯を見つめてどれくらい時間が経っただろう。
閉じられた携帯に手を伸ばしては引っ込めを数回。
気付けば日付が変わるまで数分となってしまっていた。
今日は七夕。そして明日は火積くんの誕生日。
明日は休日だし起きてるかな。でもこんな時間に電話したら怒る?
火積くんの事だから私を心配して怒りそうだけど。怒るとは少し違うのかな?早く寝たほうがいいと言われそう。
その光景が目に浮かんでそれだけで嬉しくなってしまう。
「明日の朝電話してみよう」
朝は早いはずだし夜よりいいかもしれない。
メールでもいいけどはじめてのおめでとうは電話越しででも直接伝えたかった。
それなら早く寝なきゃと椅子から立ち上がる。
「っ!?」
立ち上がった瞬間に聞き慣れたメロディが流れて驚いてしまう。
それは着信を伝える音だった。
こんな時間に誰だろうと携帯を開くと先程よりも更に驚いてしまった。
「火積くん!?」
液晶に映し出された名前を見て考えるよりも早く通話ボタンを押して携帯を耳にあてる。
私まだ寝てないよね?夢じゃないよね?
「……悪い。寝てたか?」
「ううん!大丈夫だよ!」
つい出てしまった大きな声に意味もなく回りを見て声を潜める。
「まだ、寝てなかったから……」
「……そうか」
声を聞くのは久しぶりで変わらない低い声に胸が高鳴る。
たまに電話してもあまり会話はない。でもそれがよかった。この繋いでる時間を共有したい。
少しの沈黙。ちらりと時計を見ると日付が変わるまでもう2、3分だった。
「火積せんぱーい!駄目ですよ、それじゃあ」
聞き覚えのある声が電話口の向こうから聞こえてくる。
そういえばこんな夜更けにしては少し周りが騒がしいような?
「新くん?」
「水嶋!小日向の声が聞こえねぇだろうがっ」
「聞こえないも何も火積先輩がそんな黙ってたらかなでちゃんが話せませんよ〜」
鈍い音と新くんの短い悲鳴が聞こえた気がした。そのあとに火積くんのため息が聞こえる。
「悪いな。部の連中が泊まりに来ててな」
「ううん。賑やかで楽しそう」
「……うるさいけどな」
楽しいという方は否定しない事は言わないでおく。
「七夕で……水嶋が笹貰ってきて短冊飾ったんだ」
「そうなんだ!いいな〜。私は部室の窓に吊り下げてきただけ。やっぱり笹は大きいの?」
「あぁ、学校に持ってきやがってそんなもん何日も置いておけねぇから家に持ってきた」
「いいな〜」
笹もそうだけどその光景が楽しそうで、火積くんと過ごす七夕が過ごせたらいいなと思った。
そしたら誕生日も祝える。
「……写真、渡す」
「本当!?楽しみだな」
一緒に過ごせなくても火積くんが過ごした七夕を知れる。それだったら私も吊り下げた短冊を写真に撮ったほうがいいかな?
でも書いてある願い事を見せるのは少し恥ずかしい。裏面にするとか?でもそれだと透けちゃうかな。
「今月行けると思う」
「うん……え!?」
「都合、悪いか?」
考え事しながら頷いて驚いてしまった。
私の驚きを火積くんは都合が悪いととったみたいで私は慌てて否定する。
「ううん!嬉しい!写真、直接火積くんから貰えるんだね」
「……あぁ」
火積くんは安堵したように先程よりも柔らかい声音で頷いてくれた。きっと少し笑っているんだろうな。
「じゃあ、日程決まったら連絡する」
「あ、待って火積くん」
時計を見ると針はとっくに12時を過ぎていた。
話に夢中になっているうちに火積くんの誕生日を迎えてしまっていた。
「誕生日おめでとう、火積くん」
一瞬間が空く。
電話越しに火積くんの表情が伝わってくるようで私は笑っていた。驚いてるような照れてるような彼に伝わるように。
「……あぁ」
何て返したらわからないようなでも嬉しさが伝わる声。
電話を切ったあと、その優しい声音に包まれているような気持ちで眠りについた。
短冊に書いた願い事は今月に叶う。
“火積くんに会えますように”
H22.7.18
優しい声音に包まれて
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