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「一番?誰もいないなんて珍しい〜」
HRが終わって音楽室へ来ると中には誰もいなかった。
「火積先輩までいないなんて」
八木沢部長が夏の大会で引退して今は引き継ぎ期間中。
引退しても様子をよく見に来てくれる。
と言っても夏休みが開けてからまだ一ヶ月しか経ってないけど。
「あっちも晴れてるかな〜?」
端の机に座って窓越しに空を見上げる。
こちらは快晴。かなでちゃんがいる場所の空はどうだろう?
「メールしてみよっと」
ポケットから携帯を出して開く。
すると画面には着信メール一件と表示されていた。
彼女に送ろうと開いた携帯にメールが一件。かなでちゃんかなと期待してしまう。
メールを確認すると差出人のところには“かなでちゃん”と記載されていた。
はじめてでもなく、久しぶりのメールでもないのにこんなに嬉しい。
毎日こんな幸せな気持ちにしてくれるなんて。
「何だろう?」
まだこの気分を味わいたい気持ちもあったけど早く返信したくてメールを開いた。
『今日は公園で練習しました。新くんと一緒に演奏した事を思い出したら楽しくて気がついたら人がたくさんいてびっくりしちゃった』
夏に出会った彼女に恋をして、告白をして恋人になった。
学校も違うし住んでる場所も遠い。
時々淋しく感じてしまうけど演奏すると彼女との事を思い出して楽しい。
だから彼女も同じように思ってくれたのかもしれないと思ったら嬉しくなった。
目を閉じればかなでちゃんが演奏する姿が浮かぶ。
その横にはオレがいる。
しばらくそうしていると再び携帯に目を落とし返信画面にした。
『オレも今から練習!かなでちゃんのメール読んだあとだから更に楽しく弾けそう!オレも外でやろうかな〜』
「返信、っと。Ai!」
返信ボタンを押した瞬間頭に慣れた痛みが走った。
せめてパーにしてほしい。
「痛いですよ、火積先輩」
「今日は校庭に集合って言っただろ。人の話はあれほど聞けと何度言ったらわかる」
振り返るといつもと変わらない火積先輩がいた。
怒ってみられやすいらしいけど火積先輩が本気で怒ったらこんなもんじゃすまない。
「そういえば昨日そんな話を聞いたような……」
「いいから机から下りろ。もう他の奴は集まってるから早く行くぞ」
火積先輩は足早に音楽室を出て行ってしまった。
よく考えたら音楽室の鍵が開けっぱなしっておかしい。火積先輩が来てから気付いても遅いけど。
「そっか。今日は外なんだ」
筋トレから始まるのかと思うといつもは憂鬱でも今日は何だか気持ちが軽かった。
外で練習していたと言うならかなでちゃんがいる場所も晴れているんだろう。
オレが見上げた空と同じ快晴ならいいな。
「待って下さいよ、火積先輩!」
トロンボーンを入れたケースを持ち上げ、オレは音楽室を出た。
彼女と繋がる空で演奏するために。
H22.3.6
彼女と繋がる空で演奏するために
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