饗宴の終わりに


メモ


「シャルだあ〜!」
「え、ロテカ? なんでこんなところに」
「私だってもう一人で色んなところ行けるんだよ! あれ、このお姉さん誰?」
「えっと、私は」
「あ! もしかしてシャルの彼女とか! かわいい子いいなあ」
「ば、変なこと言うなって。チルイは彼女じゃないから」
 突然シャルの後ろから勢いよく抱き着いた彼女を見て驚いた。突然だったとか、シャルの反応が新鮮だとかそういうことではない。シャルが後ろから勢いよく来る「何か」を避けなかったことに驚いた。私が気付いていたのだから、シャルが気付かないわけがない。だから、それを受け入れたシャルに驚いたのだ。
「もしかして、流星街の子?」
「え、分かっちゃう?」
「仲いいから、小さい頃から仲いいのかなって」
「そーいうことね! 私たち、昔から仲良しなの!」
 シャルは、早く離れろよと言いつつも嫌な顔はしていなくて、本当に仲がいいのだと分かる。なんとなく胸の奥がもやもやして、上手く笑顔が保てなくなっているのが自分でも分かった。あ、ダメだ。
「久しぶりに会ったんでしょ? 私先に帰るから、一緒に遊んできなよ」
「え、先に帰るって今日は」
「私はいつだっていいから。空いてるときまた誘ってよ」
 最後の力を振り絞って、シャルとロテカちゃんに見えている間だけは笑顔を保つ。胸の奥がどんどん重みを増してきて、どうしていいのか分からない。それがどうしてなのか、さっきの状況を思い出して考えれば考えるほど目に涙が溜まる。
 逃げるように自室に入ってベッドに横たわった。分からない。気持ち悪い。どうしてだろう。悶々と考えても具合が悪くなるばかりだ。時間の経過とともに身体が重くなっている気がする。

 そのまま寝てしまっていたらしく、翌朝目が覚めるとシャルから何件かの着信とメッセージが届いていることに気付いた。あまりにも私が電話に出ないから心配したらしい。とりあえず一度電話を掛けると、シャルはすぐに出た。
「今どこ?!」
「えっと、家。グロリアの」
「良かった。全然電話でないし、出れないならメール返してって送っても返事ないし。何してたの?」
「家に着いてからさっきまで寝てて」
「具合悪いの? 大丈夫? オレさ」
 電話の向こうから聞きなれない声が聞こえる。雑踏ではない。一人の声だ。彼女と一緒にいるのか。
「私は大丈夫! 全然平気。ちょっと疲れてたみたい。でも、心配だから今日一日は大人しくしてようかな」
「そっか。あのさ、昨日見るはずだった映画、来週見に行かない?」
「昨日見なかったの?」
「いや、見たけど」
「じゃあ気にしなくていいよ。私だって映画一人で見に行くくらいできるもん」
 昨日と同じだ。けれど、今、自分の言葉が胸の奥の重りを増やしているのが分かる。どうしてだろう。



下睫毛に浮かぶ水滴にキスをする

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