※ もしもあのままマギ世界に戻らずに進んでいたらIFです。決戦前々夜くらいのオルニオンにて。
昼間の喧騒が嘘のように、ここは静かだった。
今まで頼りにしていた魔導器もなく、人の手だけで一から作り始めたこの場所は、もうだいぶ町らしくなっている。見上げれば、深い夜の空を赤黒い触手が全てを抱き込んでいた。
「ナマエ、こんなところにいたのか」
町の方からラフな格好をしたフレンが、足音を立てずに近づいてくる。いつもはガシャガシャとした甲冑の音を立てているからか、所作の全てを静かだと思った。
彼は寝転んでいるナマエの隣にまでくると、徐にそこに座り込んだ。
「ユーリに聞いたよ。凛々の明星に入るんだってね」
「…うん。やっと、決めたんだ」
「…ナマエは、騎士団に残るものだと思ってた」
腹の上で、指を組んだり離したりを繰り返す。
さらさらと風に揺られて草が頬を撫でていった。世界の音があまりにも静か過ぎて、もう、星喰みに食べられてしまったのかもしれないとさえ思わせた。
フレンはおそらく、真っ直ぐナマエを見下ろしているのだろう。あの空色の澄んだ瞳に見つめられると、泣きたくなる。
ゆっくりと目を閉じれば、目蓋の裏にぼんやりとした月の薄明かるい光がそこにあった。
「…アレクセイは、厳罰に処されるでしょう…? そうしたら、娘の私が、騎士としてそこにいても、周りの目がそうは見てくれない。フレンの立場を悪くさせてしまうなら、騎士でなくてもいいと、そう、思ったの」
「僕のことは気にしないで、それにナマエはナマエだろう? 君が騎士を続けたいなら、そうするべきだ」
「言うと思った」
くすくすと笑えば、彼は笑い事じゃないよとため息を吐いた。それから、ふいに落ち着きのないナマエの左手をとって、するりと指を絡める。彼の武骨で長い指が、柔らかく指の腹を撫でる。目を開けないわけには、いかなかった。
「…フレン。わたし、本当に、誰かのためになるのなら、それは騎士でなくても素敵なことだと、思ったんだよ」
「…ナマエは守られなくたって強いかもしれないけど、ナマエが傷つくようなことを続けるのなら、僕は傍で君のことを守りたい」
ちらとフレンを見上げれば、案の定彼はこちらを射抜いていた。
彼はいつだって真剣だった。三つ離れた弟のようだと思っていた時から、彼は真っ直ぐにナマエに向かってきている。揺らがない眼差しで、ずっとその先を見据えている。
ナマエは身を起こして、繋がる指先を見つめていた。
「…まずは、目の前の星喰みを倒してからじゃないとね」
「絶対に倒す。だからこそ、その先の話がしたい」
「ーー…フレン、わたしがユーリと一緒にいるのが嫌?」
くたりと小首を傾げて笑えば、フレンは少し言葉をつまらせた後に、ほんの一瞬、唇に触れた。
「ーーそうだと、いったら?」
「それは、困ったなあ」
彼の胸元に額を寄せれば、いつもよりも薄手のシャツのせいか、心臓の音が近くに聞こえた。
「ーー私、騎士団には戻らない。凛々の明星として、フレンのことを支えていきたい」
敵わないなと零した声は、穏やかに笑っていた。
もうすぐ、アレクセイの残したものと決着の日が迫る。
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