凍り付いた世界の中で、焼け焦げてしまうのではないかというほどの熱を覚えている。誰もが手をこまねいていた状況で、彼だけはその身に背負いきれないほどの熱をぶら提げて手を差し伸べてくれた。


「大丈夫か」


朗らかに微笑むことも慰めるように頭を撫でることもしない不器用な掌は、ただただ名前の冷たいばかりの手を引き上げるだけだった。それでも、あの瞬間、彼は紛れもない名字名前にとってのヒーローだったのだ。


 * * *

よくある普通の一般家庭で育った名前は、誰もが持つ当たり前の個性を身の内に宿しながら変わらない日々を送っていた。先日、無事雄英高校のサポート科に入学を果たした彼女は今日も偏屈の巣窟――いや、少々変わった仲間が集う教室に足を踏み入れる。


「おはよう、明ちゃん」
「名前! 見て見てこのドッかわいいベイビーちゃんを!!」


天下のヒーロー育成校として名門中の名門である雄英高校にあるサポート科は、それなりの企業の後ろ盾もあることから入学早くから研究に明け暮れる生徒が多い。とはいいつつも、ヒーロー科からの滑り止めで落ちてきている生徒も全くいないわけではないので、そういう生徒との温度差もあるのだが基本的にはサポート科志望の生徒が大半を占めている。彼女、発目明はそんな中でもE組――いやサポート科きっての発明オタクと称するに値する生徒で、その開発品は入学して間もないというのに既に両手の指では足りない数を作り出していた。
今日も今日とて始業間際まで工房にこもっていたようで、煤だらけの頬を緩ませて机の上に置かれた一見ヘッドフォンのようなサポートアイテムの性能をつらつらとまくし立てていた。


「このベイビーちゃんはですね、倒壊現場で僅かな声も拾い上げてその反響音、方向、外部デバイスから入力した倒壊状況から正確な位置情報を割り出して――」
「明ちゃん明ちゃん、教室のいろんな音拾い過ぎてバグってノイズ発してる」
「んー音声センサーの集音と判別機能に改良の余地ありですね…!」


なんていう朝の日常が、入学してから続いている。
――名前が現在作ろうとしているアイテムはまだ二つ目だ。ほかの生徒も同じくらいで、彼女の圧倒的な才能に、朝から唇を引き結んだ。彼女がいれば、恐らく多くのヒーローの手助けになるのだろうと思う。
彼女の隣の席に腰を掛け、鞄からサポートアイテムの開発アイデアノートと銘打たれた一冊を取り出す。パワーローダーが作ったというアプリを立ち上げて、工房使用権の予約を勝ち取る。隣で耳あての部分を分解して解析を始めた発目を視界に入れながら、放課後に作るアイテムの図面を確認した。

サポート科は工業系高校のカリキュラムに加えてヒーローにかかわる授業も多く入っている。歴代のヒーローの個性、装備、特徴的な敵との戦闘などなど、サポートアイテムを作るうえでパートナーとなるヒーローをよりよく知るための雄英独自の授業が組み込まれている。
毎年同期のヒーロー科の個性を検討するという授業が体育祭を挟んで数回に渡って行われ、今日はその初日だった。暗くなった教室前方に投影された映像にはA組のヒーロー実技授業の様相が流れていた。


「――次、出席番号十四番、常闇踏陰君。彼はダークシャドウと呼ばれる影のようなモンスターを自由自在に操る個性を持っていて――」


もしも彼らが敵に会敵した場合あるいは災害現場に赴いた場合、戦闘行為や救助行為をよりよく行ってもらうために必要なアイテムを考えること。勿論ここに彼らはいないわけであるからこの思考が果たして正しいのかどうかは分からないけれど、それに至る考えをディスカッションしてアイテムとして具体化させていくのがこの授業の狙いだ。
次、とスライドが切り替わる。
――特徴的な、赤と白のツートンの髪。顔の左半分を覆う火傷痕。右手から放出される氷塊。
握りしめていたペンが、手から落ちた。


「出席番号十五番、轟焦凍君。個性は右手から氷を、左手から炎を放出することができる。彼の場合災害救助よりは対敵要員として制圧能力に長けているが、もし仮に救助面での個性発揮を伸ばすとしたら必要になってくるポイントはどこだと思う?」


氷漬けにされたままの左半身。まるで、その赤を拒むような、白。


「名字、君の考えはどうだろう?」
「――っえ、あ、は、はい! …えっと、氷と炎の同時制御と緻密なコントロールによって対象障害物の滅却か氷結による足場の確保…人命救助に至るまでの導線の確保をメインに遂行するためのコントロールだと思います」
「ふむ、他の意見は――」


机から転がり落ちたペンを拾い上げた。
他の生徒が意見を述べて終わった短いディスカッションの後、スライドは次の爆豪勝己という生徒を映し出していた。
――落胆とも、驚嘆とも、納得とも、なんともつかないまるで砂利を噛み締めたような質量のない靄が胸に重なる。窓の方を向いたところで、厚いカーテンにさえぎられて何も見えるはずなどなかった。

赤と白の少年