酒場話
時系列バラバラになります
(一味が来る前な話)
馴染みのようなカウンター席が空いていたら当然そこを選ぶ。でも当たり前にその席に名前を書き込んでいるわけでもなく、他の人が座ってグラスに口をつけていたりもする。そんな行きつけのようなお店は、人の会話を邪魔しないようなブルーノさんが店主である。今日も今日で各々のテーブルで好き勝手にお酒を口にしては、くだらない話をする憩いの場になっている。
私と露店屋の友人とで錆びついた鈴を鳴らしつつ扉を抜ける、ムンとした人の熱気を感じつつ空いている席…と見まわしたけれどどうやら満席のようであった。活気溢れる店内、よく座るような場所は当然他の人が座っていた。あとは一人で呑む人くらいしか座りどころがないような賑わいである。そしてもう既に出来上がって大声で話しているようなテーブルもあって、二人でさてどうしようかと顔を合わせた時であった。
「ほれほれ、こっちじゃ」
「おお、おつかれ。席がないなら、おれはあの樽に座るか」
「わしもそうじゃな」
長い鼻が特徴的、そしてコミニケーション能力も高いような男がめざとくというのか私達を見つけてくれたようであった。こいこい、とどこかニヤつく表情で手招いた。男だけじゃむさ苦しくてかなわん、というカクが居る。二人でお言葉に甘えてと、そのテーブルにつこうとする。背の高いルルさんが店内の端にあった大樽だかを勝手に持ってきて、おれはこの高さに座るのが楽だなと言いつつ席を空けてくれた。
「ルルさん脚長いですもんね」
気を遣ってくれたルルさんお礼という名の返しをすれば気にするなとばかりに、席を指示された。同じようにカクも酒樽を持ってきて腰をかけていたし、そして確かに背の高い方にとっては楽なようにも見えた。
「パウリーもお疲れ様」
「…おう」
指示された席に座れば、私とはやや反対方向に身体を向けつつのパウリーがいて、ありきたりな挨拶をした。口元の髭を指でかいてから半分近くありそうな酒を一気に飲み干した。目の前で上下する喉仏、そして飲み干したジョッキをテーブルに置きつつ、ブルーノ追加だと申し出ていた。そして合わせて私達のも!と手を挙げた。
「ふふ、なんですか、またツケです?」
「ハ、今日は持ってらァ」
『威張る事でもないな』
どうだ、とばかりの反りかえるような態度のパウリー。そしてポッポーと煽るようにハットリ君が鳴いていた。金がないのにくるな、と続けるルッチさんがブランデーだかに静かに口をつけていた。
『禁酒期間は三日といったところか』
「あはは、遂に飲むことすら出来ない借金額にもなったんですか」
「ちげェわ!」
「えー」
「いやナマエ違うんだ、今回金じゃないんだ」
私達が笑いながら口を挟み始めれば、ルルさんがフォローのように簡単な説明をし始めた。
「ん?職場の健康診断?」
「そうなんじゃ、今日昼間にあってのぉ」
「あ〜、だから今日禁酒明けなんですね」
「確かに、ガレーラさんくらいの規模の職場になるとありそうですもんね〜」
「いやでも直前に禁酒とか、あはは…焼石に水じゃない。あ〜、でもうちの父もしてたなぁ」
「お、パウリー、ナマエの親父さんの一緒だと」
「おれと仲間だなパウリー!!!!」
「うるせェな!禁酒してたろうがおめェらも!」
友人と二人で納得しつつ、手元に来たジョッキを合わせた。そして友人はカクと、私はルルさんにと席を譲ってくれたお礼のように乾杯をした。そんな付け焼き刃な禁酒を笑い終わったところであった。
すると、わははと思い出すように笑い始めたカクに皆が視線を向けた。
「……すまんのぉ、思い出し笑いじゃ」
どこか悪戯気に思える表情は元の顔のせいかどうか。チラリと私の隣に座る男に一瞥をくれた様にも見えて、どうやらそう見えたのは私だけでもなかったらしい。
「…オイ」
「残念じゃなぁ、口止め料が足りんかったわい」
手に持つ空のジョッキをアピールするカクに、訳を知るらしい彼等は事情を知っているのか同じように思い出し笑いをし始めた。知らない私達は勿論その内容を急かす事になった。
「その健康診断あったんじゃが」
「言うなって言ったろうがァ!返しやがれ、一杯分ッ」
「こんな話世間話にすぎんからのぉ。それでなぁ、血圧を〜となってなぁ、パウリーは測定してくれるあちらさんの胸元見過ぎたのかで血圧上がりすぎて再検査になってのぉ」
「っふふ、何それ、どれだけ興奮しちゃったの?」
「ち、ちげぇって、その、アレだ」
「いや、どれですか」
血圧の再検査に引っかかったらしいパウリーを見れば真っ赤にして苛立ちを見せている。周りもあの目はセクハラであったと囃し立てる。
「あの保健師の格好はええのぉ」
「あぁ、分かっているよな」
「…ハレンチ極まりねェだろうが」
「それはお前さんだけの話じゃ」
どうやらガレーラカンパニーの医務室には豹柄でミニスカートな医務服を着る専属の方がいるらしい。あぁ、それはパウリーには刺激が強いのかもしれないと納得をしてしまう。
「『脈はやすぎて無理ですね。仕事になりません』と呆れられていたのぉ」
「あはは、それは仕事妨害過ぎますね。えー、パウリーもうそろそろ落ち着かないと」
「せェな!散々コイツらがうるせェからよ」
いやいやお前だお前と呆れるような面々を見るとそんな健康診断の様子が見てみたかったところだ。グイッと酒の入ったグラスを傾けた。
「ほれほれ、ナマエ、パウリーの脈とったれ」
「えー、じゃ」
「触んなハレンチ女がァァ!」
「いやほら何もしてない、あとちゃんと着てる着てる」
愉快とばかりに手を伸ばすがその手を避けようとするパウリーに周りも笑う。なんだパウリー緊張してるのか、などという酔っ払いの揶揄に唾を飛ばしつつ騒ぐパウリーにしつこく手のひらを伸ばした。
「っ!」
「ん〜…」
手を伸ばした先は怒張するような血管が分かりそうな首であった。すごい汗かいてるじゃないと苦笑しながら、ドクンドクンと脈打つ場所を指先で感じる。ドクンドクンという表現は私の予想であっただけであり、実際にはドッドッドッと忙しないにもほどがあった。顔を真っ赤にしたままのパウリーが半分石化したかのように動かなくなってしまった。
「くっ…、ふふ…待って、早鐘すぎて心配になるレベル」
「そりゃそうなるだろうな」
「ナマエ、やっぱパウリーを解放してやってくれんか。そのままでは死ぬぞ」
額に浮かぶ冷や汗をおしぼりで拭きつつのルルさんが頭の寝癖を他移動させる謎の寝癖を披露している。そしてカクはワハハと笑っているし、タイルストンさんやルッチさん含めて各々の反応をとっていてとりあえず賑やかであった。これは確かに血圧含めて検査の際には面倒であろうことは予想された。
「…っあんたなァ…」
「え、」
「なんでもねェよ、ハレンチ女が」
「とりあえず心拍減らして血圧下げるお薬もらお」
太い首から手を離せば舌打ちが聞こえてくる。私の冗談な一言に、おめェのせいだと盛大に人のせいにするパウリー。ムッとして、その手元にあるパウリーの残りのお酒を飲み干してやった。
「良かったなパウリー、肝臓心配されとるのぉ」
煽るカクと何すんだと怒号を飛ばすパウリー、とりあえず自身のグラスをカクと乾杯する事で逃れようとしたのだった。