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 パウリーと出掛けたことは新鮮であった。不躾に休みに出掛けるぞと誘うのに、何も予定がないのも面白い。きっと周りから世話されて、このような形になってしまったんだろうなと察してしまった。一緒に出掛けただけで、色々な人達がパウリーを支えてくれているのだと垣間見られる瞬間が何度もあった。そんな形ではあるけれど、ガレーラカンパニーの方々は間接的に私まで気遣ってくれている気がした。


「…あの中に欲しいものあるか?」

 二人で出掛けたその帰りがけであった。パウリーがこのような空気は限界だとばかりに指差す方向を見ればアクセサリーやお土産品などを売っている露店があった。あからさまにぎこちなくなる雰囲気に、まぁパウリーって異性にプレゼントって柄じゃないもんねと苦笑した。それでもそう気遣ってくれた事には甘えておかないと失礼かなとそちらに足を運んだ。あまりパウリーの懐を痛ませる事も出来ないなぁと思いつつ並べられている品物を覗き込む。誰かが頭の中でこの前所持金巻き上げた奴の思う事ではないと囁く気もした。それに対しては、アレはお酒、全部そのせいだからと反論をした。

「んー…」

 綺麗なおねえさん、貴方にはかなわないが良いもの揃っているだろう?とこちらの喜びそうなお世辞を添えつつ店の方が話しかけてきて、自然と商売トークの様に名産の石を使ったやつだなんだと会話を進めてくる。確かに言うだけでどれもコレも素晴らしい商品で目移りしそうであった。

「パウリーさんも隅におけないねぇ」

 私から一歩引いたところで眺めていたパウリーは突然自身の名前を呼ばれて驚いていた。自身の顔の広さを理解していないのだろう。こちらとしては、今日のお出掛けは多少噂になってしまうかもと最早諦めているというのにだ。

「ふふ、今日はパウリーさんにツケを払ってもらっている最中なんです」

 とは言っても今日は全て私が出しているけれどと心の中では付け足した。私がそう言えば笑い出す店の方が、パウリーさんらしいなと納得していた。

「おまえな」
「という事でパウリーに選んでもらいたいかなぁって」
「自分で好きなやつァ選べば良いだろ」
「それじゃつまらないもの」
「パウリーさんなぁ、選ぶっつうのが良いんじゃないか」
「なんだっつーんだ」
「ちょっと、お店の人睨まないでね」
「睨んでねェ。絶対センスねェとか違うのが良かったとか言うだろ」
「言うと思うの?」

 苦い顔で文句を垂れるパウリー。しかし私の問いかけに返答がないというのは、言わないと思っているのだろうかと都合よく受け取らせてもらった。選んでくれようとするその気持ちが嬉しいと感じる。その上、並ぶ商品全て素敵であるからこそどんなものでも嬉しい、商売トークから含めてセンスがある品揃えであろう。けれどもウデ一つで働いてきました的な環境で過ごしているパウリーには難しい案件なのかもしれない。けれど今、陳列されている品物を眺めて低く唸ってくれるだけで温かく、収穫ものである事は確かだ。

「パウリーさんパウリーさん」
「あ?」

 露店のお兄さんというかおじさんがちょいちょいと指でパウリーに耳を貸せという。眉の寄った顔で渋々と耳を傾けて、そこに何かお店の人が肩を組むようにして入れ知恵をしている。店の人は私に向かって手だけで少し離れろとジェスチャーをしてくる。数歩分離れたが正直に言ってもの凄く気になる。

「なっ」

 秘密にされると知りたいと当然に思う。話終わってから真っ赤になった顔で何でもないと言われてしまい余計に気になる事となってしまう。そして並んでいるものを顰めっ面で眺めているパウリーを見てそこまで真剣に悩まなくてもと少しだけ申し訳なくなってしまった。

「…お兄さんなんて、」
「いやぁ、市民としてはガレーラさんの味方だからなぁ。まぁそもそも答えないって分かっているだろ?な?貸しブル屋のおねえさんよ」

 少し驚いていたら、商売仲間のようなもんだろう名前までは知らないけど分かるよと言われ確かに納得する。この水路なら私もよく通るからこの店は知っている。選ぶのにあたっての前置きのような話をしただけだよと笑って言ってはいるが、それでこれだけ悩むのだろうかと疑問にしかならない。喉を鳴らすように笑う店の方、そしてモノを眺めたまま無言になったパウリー。

「…おい。あっち向いてろ」
「え」
「絶対に笑うからだ」
「いやここで笑う理由なんてないでしょ」
「いいから、向いてろ。寧ろ離れろ」

 苦い顔をしながら私の方を向いたかと思えば、手で追い払うような仕草をするパウリー。笑うってどう言う事だと首を傾げるが、さっさと向けと言われて渋々背を向ける。一応の送り相手に対してそこそこ酷い扱い方ではないだろうか。

「コレ」
「はいよ、じゃ見えないように包んでおくな」
「頼む」
「パウリーさん、よかったら贔屓にしてくれよ。まけとくよ」

 耳を大きくするようにパウリーと店の方とのやり取りを聞いていてもヒントとなりそうな話は伝わってこない。当たり前かと思うけれど、これでは何か思惑があるのかと勝手に勘繰ってしまうじゃない、と助言してしまったお店の人を少しだけ恨む。というか、自然とカモになってない?と思って声に出さずに笑ってしまった。

「パウリー…?」
「まだ渡さねェ」
「えぇ…」

 また来てくれよパウリーさんと笑顔で手を振る店の方に軽く頭を下げた。石畳を歩きながら、パウリーは散々な目にあったと疲弊していた。

「初めて見てみたけど良い品揃えだったね」
「そうなのか?」
「うん、どれも綺麗で丁寧な細工だったし素敵だと思う」
「あぁ」

 陽が傾き、海の果てから空にオレンジ色の滲みが広がる。まだ陽はあるからと大丈夫だと言うのにも関わらず送ってくれるというパウリー。変に律儀な男だと思いつつ送ってもらい、ヤガラブルから石畳への一歩の道のりは当然のように手を貸して支えさせてくれる男。こういうところは普通にやってのけるから多少危険な香りがしてしまうんだと僅かに胸が高鳴りそうなのをぐっと押し込める。この島の人だとよくやるようなエスコートだけれどパウリーにされるとどこかむず痒くなってしまう。そのまま手首を掴まれて、その手に絶対に部屋に入ってからだと念押しされ、ポケットから出された小箱を握らされた。ありがとうとお礼を言いつつ、やや眉を寄せた強めな表情に笑いながら頷いた。

「ふふ、大丈夫?泊まっていく?」
「バカ言ってねェでさっさと帰れ、家入れ」
「はぁい。パウリー、次はちゃんと買うもの覚えておいてね。で、付き合わせて下さい」
「ッ、わかってらァ」

 いつかの様に揶揄えば、一瞬驚いてくれるけれど呆れた様に手で追い払われてしまった。少し意地悪というか嫌味な言い方だったかもと思いつつもパウリーが去ったのを確認してから家に入る。
 静かな部屋の中、備え付けの机の上で丁寧に包装を解いていく。楽しみだったプレゼントのようなお土産でもあるモノはなんだろうか。結果としてパウリーを困らせてはしまったけれど、この楽しみをもらえたと思うと選んでもらって良かったと思う。包装を解いて、箱に入っていた小綺麗な手のひらサイズの黒いアクセサリーボックスであった。指輪…ではないよね、ネックレスかなと頭に過ぎる。

「ふふ、…確かにコレは」

 笑いを堪えられなかったなと思う。そのアクセサリーボックスに入っていたのは私が今つけているような揺れるようなフック型のピアスではない、スタッドピアスであった。先程鐘楼を登った時に、パウリーが私のピアスに触れるような手つきをした。私が気付いたから引っ込めた手は気付かなかったらとどうしたのかと思ってしまう。ピアスの揺れが気になるだかなんだか言っていた事、そして対して猫じゃないんだからと笑った記憶。そうとなると、これは揺れないピアスという事になるのだろう。なるほどもう触らないという意思表示でもあるだろうのかと推測した。
 透き通る様な石が光を複数の面で反射させてキラキラと魅力的な煌めきをしている。綺麗、と思わず呟いてしまうほど細工が良い気がするが、一応業種的には商売屋に入るせいかパウリーの懐事情を気にしてしまう。そんな高すぎるお店ではなかったから大丈夫だと思いたい。このピアスはシンプルで、だからこそ日常的にも使いやすそうであった。



 シンプルなピアスはほぼ着けっぱなしになった。ちなみに、色々と反省したという事にしてお酒は解禁である。数日後だった、とある店の中歓声湧き上がるのはウォーターセブンの裏の顔であるフランキーが両手を上げて派手なポーズを決めているからだ。私も周囲と一体になりつつジョッキを上に掲げた。
 フランキーが景気良くその場にいた客に奢ってくれるらしい。時々見られる素晴らしい光景である。どこかの海賊船から解体したか、巻き上げたかどうかは知らないけれど、とりあえずタダ酒は最高に美味しい。表としてはいけないのかもしれないけれど、表もあればその反対もあるという事だ。観光業でも盛んなこのウォーターセブンだ、ウチの貸しブル屋の店主もよく相手をみて和かに割高に料金をふっかけてみたりしているところもある。

「最近調子はどうわいな?」
「モズ、キウイ!仕事?ならまずまずで。そっちも景気の良いことで」
 ジョッキを合わせながら、話しかけてきた彼女らにお酒のお礼を伝えた。歳下彼女らは、毎回会うと話しかけてきてくれるので妹みたいな感覚で察してしまう。そんな気さくな彼女らは、よく私に休みをとれ、オシャレをしろ的な事も言ってくれ世話を焼いてくれる。

「ところでガレーラの奴とデートしてたって聞いたわいな」
「ん?アレはデートじゃないよ」

 アレから何回か色々な人に…そう色々な怖い方含め同じ様な問答をした。ガレーラカンパニー、またパウリーという人物の人気さを改めて知った。ツケを返してもらっただけだと何度話をした事かとため息を吐いた。ザックリとした流れを彼女らにも同じように説明をしたのだ。

「休み合わせたんだわいな?」
「うん」
「でご飯食べて、観光して?」
「うん」
「それデートだわいな」
「わいな」
「え」

 確認するような質問に答えていったら、二人がそれをデートと呼ぶのだとばかりに囃し立てるので、戸惑いが生まれる。まってデートの定義を誰か教えて欲しい、とばかりに眉間に力が入った。その上、一応お土産みたいなプレゼントまでいただいてしまっている。もうこの状態ではその事までは言えないじゃない、と呑気に装着している耳が熱くなる。へぇ、と何とも生温かい目で眺めてくる二人にむず痒くなり否定をする。折角、一生懸命に誤解を解こうしたのに、いつも以上に喋るわいなと一言痛い指摘をされてしまい、最後はだから違うのに…という一言と共にジョッキに半分残るお酒を一気に喉に流し込んだのだった。