in the snow everywhere
「Devil May Cry」
お決まりの台詞が今日はいつにも増してイカした発音だったと自負した男は、口元だけにやついて受話器を耳に押し当てた。浴びたばかりのシャワーによって火照った身体が、より熱っぽい声色の助けになったのか。
残念だったのは、それを聞いた受話器の向こう側の返答が、艶やかな美女のソプラノとは程遠く、下品なだみ声だったことだ。
「よぉ、久しぶりだな!いい知らせがあるんだ!」
「…んだよエンツォか…切るぞ」
だらしなく机に足を投げ出す男は混じり気のない見事な銀色の髪をかき上げ、急降下した体温とテンシションに任せて受話器を元あった位置に収めようとした。
「おいおいそりゃないぜ、せっかくいい仕事掴んできてやったのによぉ」
「お前のその台詞で何回俺が泣いたと思ってんだ」
「今回は違うって!そりゃとびっきりのやつだ!」
「…ふーん」
至極どうでも良さそうに返した男は、机に乗った自分と同じく冷め切ったピザの一切れを、みみっちくかじる。不味いのはこの際仕方ない。これからはじまるであろうだみ声のマシンガントークに酒もつまみも無しでは耐えきれないのだから。
ついでにジンでも取りに行こうかと立ち上がると、受話器越越しの声に幾分か真剣な響きが含まれた。
「あんたにしかできねぇんだよ、凄腕便利屋…ダンテさんよ!」
ダンテと呼ばれた男は嘆息して深く、深く椅子に身を沈めていった。それは最早椅子に座るというよりかは腰が引っかかっているだけといったところだ。
形のいい薄い唇が、たっぷりと時間をおいて開いた。
「イヤだね」
イタリア人は期待に唯でさえ膨らみきった腹を更に膨張させた意味がまるで無かったようだ。
「なんでだよ!とびっきりって言ってるじゃねえか」
「知らねえよ。どーせまた前金貰っちまって後に引けねぇんだろ」」
受話器越しにドンドンと音がするのは、グローブのような手がデスクに叩きつけられているのだろう。数打後には鬱陶しい喚き言葉がプラスされて、ダンテは思わず受話器を耳から遠ざけた。
人より五感が鋭く、とりわけ機嫌の悪いダンテには軽い拷問と言っても過言ではない。
しばらく我慢していたもののやはり限界は訪れるもので、いい加減電話線を叩き斬ってやろうかと思考がよぎった矢先、あれほど耳に痛かった騒音がピタリと止んだ。
「…」
「……」
これからの展開にうんざりしないわけにはいかないだろう。
ダンテは再び盛大に息を吐く。
あしらえばあしらうほど噛みついてくるこの脂っこいイタリア人が急に黙ると言うことは、その後の展開にろくなことがないことをさすからだ。
「…ダンテ」
「……」
「その事務所、明日にでも引き払うか?」
「…………」
まったくもって、ろくなことがない。
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