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冷たい夜風はこの厳しい冬には辛すぎて、頬を撫でると言うよりかは爪を立てて引っ掻かれるような感覚だ。

「ックシ!」

たまらずくしゃみを盛大にはいたダンテは、血をこぼした様に朱いコートのポケットに手を突っ込んだ。既にグローブをはめているのだからさして効果はないのだろうが、気の持ちようである。
情報屋に言われたとおり訪れた街は静まり返っていて誰一人として住人がいないようだ。街というよりは廃墟と言った方が相応しい。鼻を啜りながら辺りを一度見回すが、やはりなんの気配も感じられない。


[人をな、探して欲しいんだってよ]
[…それの何がとびっきりだっつーんだ]
[まぁまぁ聞けって]


空を仰ぐ。
淀んだ雲はとても厚く、今にも雪が降り出しそうだ。しかし淀んでいるのは空だけではないらしい。
独特の鼻につく匂いは濁っていて、死臭に近い。冬の空気が冷たく澄んでいるという概念はここでは微塵も適用されない。

「ったく…エンツォの野郎、覚えてろよ」

愛銃である対照色の大型二丁拳銃を抜き、手の内で弄ぶ。次々に空間を歪めて姿を現す異形の者には目もくれず、さもつまらなそうに欠伸を一つ。
あっと言う間にダンテを囲んだ醜悪な怪物がが、一斉に鎌を振り下ろす。切れ味の悪い刃が肉を裂き、ブチブチと音を立てて筋肉を無理にぶち斬っていくというのに、当の本人は何事もないかのように二度目の大欠伸をかいた。

「ま、暇つぶしにはなるか…」

耳をつんざくような轟音が一つ響いたと思えば、うち一体が喉元に空いた穴を開始点に、ザラザラと地面の砂と化していく。
驚愕した悪魔達が目に捕らえたのは、串刺しになっているというのに、至って普通に構えられた漆黒の銃口から上がる一筋の煙をキザったらしく吹き消す男の姿だった。うろたえる哀れな獲物の様子を楽しむように目を細め、眺めてからダンテは笑いを含んだ低い声を響かせた。

「少しは楽しませてくれよ?」




[誘拐だぁ?]
[そう、誘拐。]
[で?囚われの姫を救う王子にでもなれってか?]
[まぁ簡潔に言えばそうなるな]
[まだ何か言いたそうだな]
[ああ、その通り]
[で?]断末魔をBGMに、ダンテは踊る。軽いステップで相手に近づき、手にした大剣で人間では到底有り得ない力を持って斬り上げた。宙に浮き、自由を失った体に容赦なく発砲を繰り返し、右腕、足、左と順に部位を破壊しては子供の様に高く笑う。

「ハハッ、脆いオモチャだな!」

とどめに放った鉛玉は綺麗に脳天に命中し、粉砕した頭蓋があたりに飛び散った。

[犯人が厄介なんだよ]
[犯人がねぇ…]
[あぁ。お前の前にも何人か王子がいたんだがな、全員返り討ちだそうだ]
[随分ガッツのある狼さんなこった!ま、俺に適う奴なんていねぇだろ]
[ごもっともだ。…まともな人間ならな]
[!…どういうことだ]

反逆者と名の付いた剣は次々と標的を切り裂き、引っかかる布や骨さえも力任せに引き千切る。メキメキと鈍い音がすると同時にこの世のものならざる悲鳴が愉快でたまらない。

[聞いて驚けよ]
[早く言えよ、あんまりトロイと驚くもんも驚けなくなっちまう]
[はいはい…聞いたらお前さん、目の色変わるぜぇ]
[…お前には耳がないらしいな]
[いいからいいから]

転倒した悪魔の頭部を固いブーツで踏みつけ、銃弾の雨をお見舞いする。息絶えたかどうかも知らなないが、お構い無しに首を胴体から蹴り飛ばした。

しばらく同じ様なダンテの独壇場が続くが悪魔の数は一向に減らない。しかし彼の意識は群がり、迫り来るもの達には向いていなかった。
依然火を吹き続けるエボニー&アイボリーに意識を三割、残りは周りに神経を尖らせる。銃声と叫声に隠れた、微かな違いを探して。

[奴さんは戦うのがお嫌いらしい]
[…おい、俺は何に驚けばいいんだ?]
[挑んだ王子は全治半年はくだらねぇ奴ばっかりなんだが、誰も殺されてねえんだよ]
[だから何が言いたいんだよ、ピザが余計冷めちまうだろ。そろそろいい加減に…]

[笑っちまうよな、その誘拐犯。


 悪魔の癖にだぜ?]


ダンテはその恐ろしい脚力で地を蹴り、あっと言う間に元民家の屋上まで飛翔する。眼下で群れる悪魔は無視、目線の先にはある一点。そこには何もない、が、それは一般人の平凡な目で見た場合である。

「BINGO!」

赤い影は地を蹴り、目標めがけて疾風よりもずっと、ずっと速く駆けていった。

その姿はまるで、悪魔のように。





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