手作りクッキーと雨の日の午後


「いい匂いなんだゾ!」
「クッキーだよ。後で、一緒に食べようね。」

出来上がったクッキーを見つめ、喜んでいるグリムに声を掛けつつ、袋の中へと仕舞う。お母さんがよく焼いてくれたクッキーを懐かしく思った私は、覚えている記憶の中で悪戦苦闘するも綺麗に仕上げたのは、上出来にも程があるのではないだろうか。ある意味、天才かもしれない。そう自画自賛しつつも、クッキーを片手にオンボロ寮を後にする。「行ってきます!」と声を掛ければ、オンボロ寮に住み着くゴースト達が「行ってらっしゃい。」と声を掛けてくれたのを耳に入れ、学校へと早足で向かった。

「監督生、グリム、おはよう。」
「デュース、おはよう。」
「デュース!!今日は、みおがクッキーを焼いてくれたんだゾ!」

教室へと入り、友人のデュースと挨拶を交す。すると、楽しみで仕方がないのだろう。グリムが、クッキーの話を持ち出した。楽しそうに話すグリムに、私はどんな反応すれば良いのか分からず、苦笑いを零す。

「へぇ、監督生はクッキーも焼けるのか。凄いな。」

目をパチクリと瞬かせた後、感心したように呟くデュースに、私は先程と同じように苦笑いを零した。二人して褒めるなんて、ずるい。味の保証なんか、あまり出来ないのに。そんなふうに困りつつも、デュースに「ありがとう。」と言葉を発せば、デュースはふわりと微笑んだ。
私は、この微笑みに弱い。デュースはきっと、知らないだろうけれど。

「おっはよ〜。」
「おはよう。」
「おはよう、エース。」
「相変わらずギリギリなんだゾ、エースは。」

予鈴ギリギリで教室へと入ってきた友人のエースに、みんなで挨拶を交わす。余裕そうにしているエースを心配してなのかは分からないが、ため息混じりに呟いたグリムの言葉に、エースもため息混じりに口にを開いた。

「馬鹿だなぁ、グリムは。俺は気を遣ってやってんの。」
「誰に?」
「そりゃあ、おま―っと、何でもねぇよ。(あっぶねぇ、言いかけそうになったわ。)」

誰に?と問いかければ、何かを言いかけたエース。三人で首を傾げるも、エースは何でもないと誤魔化し、その場を逃げるかのように席へとついた。そんなエースを不思議に感じつつも、私たちも席へとつく。
それから午前中の授業は、何事もなく進み、あっという間に昼休みになった。

「雨だね。」
「雨だな。」
「雨なんだゾ。」
「あーあ、食堂で食うしかないじゃん。」

廊下から外へ視線を向けると、雨が降っていた。外で食べるつもりだった私たちは、肩を下げ、表情を曇らせる。朝は晴天だったのに。小さくため息を吐くも、仕方ないと諦め、三人へ声を掛ける。

「食堂、行こうか。」
「そうだな。」
「そういえば、監督生。クッキー焼いてきたんだ?」
「うん、みんなで食べようと思って。」
「ふーん。みんなで、ねぇ。」




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