あの真田が恋をしたらしい。
それも俺の幼馴染みのなまえに。まあお似合いだとは思うけど……。
「ねえブン太」
「ん?」
俺の部屋に当たり前のようにいてジャージで寛いでる姿を見せてやりたい。真田は女を知らなさすぎだ。
「仁王と付き合ってるって本当?」
「………は?」
「なんか噂で聞いたんだけどさ、腐女子の妄想だとか、仁王が告白された時に断る時に言ってるとか、色々説あるんだ」
真面目な顔して聞いてくるこいつはただの馬鹿だと思った。俺は柔らかい女の子が好きだっつーの。そんなのどう考えてもキッパリ断りやすいってだけの理由だろ。相手が男じゃしょうがないよね、ってなるのを期待しているだけだ。前に呼び出しが多くて寝る時間がないとかぼやいていたからな。
でも、それからというものの仁王といる時に妙な気持ちになってしまうのは否めなくて。
仁王の独特な流し目も意味ありげに感じたり、俺の事本当に好きなのかとか、もしそうなら俺はどうするんだとか、考えてしまうようになった。今までなんとも思わなかった言動が、もしかして、これは、なんて勘ぐってしまう自分がいる。
くそ、あいつのせいだ。
睨んだ先には真田と話をしているあいつがいて、俺の横には仁王がいる。
「ブンちゃん、どうしたんじゃ?」
なんだよこの状況。
真田がふざけてた男子にぶつかられてバランスを崩す。そのままなまえを巻き添えに倒れた。咄嗟に起こしに行こうとしたけど、仁王が「ブンちゃん」と手首をつかんで動けない。
真田はすぐに立ち上がった。
真っ赤な顔で「すまぬ大丈夫か?!」って手を差し伸べてるんだけど、なまえはその手をとらない。仁王(と俺)の存在に気がついたんだろう、真田ではなく俺たちをじっと見てくるんだ。
あれはきっと何か勘ぐってるな。
真田は立ち上がろうとしないなまえを不思議に思ってその視線を辿る。そこにはもちろん仁王がいて、はっとした顔になる。
「本当に、すまなかった」
明らかに空気が沈み自分を保とうとしながら去っていく姿になんか勘違いしたな、とわかった。
でもなまえはそんな事にも気がつかず上の空で「ああ、うん」と答えたまま仁王を見ているし、仁王は俺の事を放さないままなまえを見ている。
こいつはこいつで何か勘違いしてんな。
ああ、なんでみんなこんなにもめんどくさいんだ。
恋っていうものは本当厄介なものだ。
back / next